Sake On Air 最新エピソード解説「#40: Know Your Hosts: Rebekah Wilson-Lye & John Gauntner」
ポッドキャストこんにちは、japan-guide.com事業部の追川です。
本日は弊社が制作に携わっているSakeをテーマにしたポッドキャスト『Sake on Air』(以下、SOA)の最新エピソード「#40: Know Your Hosts: Rebekah Wilson-Lye & John Gauntner」の解説をお届けします。
今回のエピソードは、前半はJustin PottsさんがRebekah Wilson-Lyeさんを、後半は普段は編集等のプロデューサー業務を務める弊社のFrank WalterがJohn Gauntnerさんをインタビューする形式です。
なお今回の放送は前回のエピソード#39と同様、過去に収録してあったデータを編集したものです。
【今回のエピソードのキーワード】
- moonlighting:夜間に副業をすること。
- up-to-date:最新の、現代の。
- cohesion:一貫性。統一性。
- zest:情熱、強い興味。
- procure:調達する。
- spit out:吐き出す。
【Rebekahさんの現在の仕事】01:45~
ニュージーランド(以下、NZ)出身のRebekahさんは現在、元サッカー選手の中田英寿さんが始めたJapan Craft Sake Companyという会社に、国際マーケティングおよびPR担当として勤めています。この会社は日本国内外を問わず、酒文化を広め、酒造にとっての新たな機会を生み出すことを目的に活動しています。
彼女の肩書は国際マーケティング部長ですが、日々の仕事内容はこの肩書だけでは説明しきれない範囲に広がっています。
その中でも主な仕事は、日本の醸造と海外の酒の専門家をつないだり、海外の新たな日本酒のファン層を発掘するために品質の高い酒を届けるためのインフラ作りです。
ただ、実はこの仕事も、酒を輸送するトラック、コンテナ、倉庫の温度管理から、輸送方法やチェックの段取りといった、「国際マーケティング部長」の肩書からは連想できないような物流業務までもカバーしています。これらは酒を遠く離れた外国まで輸送するためには欠かせないプロセスであり、この分野をサポートすることがRebekahさんに任された役割の一つであると彼女は語っています。
また、その他にもRebekahさんには大きな役割があります。それは日本酒に関しての教育です。実は、Rebekahさんは教師を務めていたご両親の間に生まれました。
Rebekahさん自身は元々ジャーナリストとして活動していましたが、本で読んだような行ったことのない場所に行きたいという思いを持っていました。英語教師への転職を決めたのも、海外に行って働くためでした。そして日本を選んだきっかけは、三島由紀夫の『金閣寺(英語版のタイトルは”The Temple of the Golden Pavilion”)』を読んだことでした。
このような経歴から、日本酒に関わる以前からRebekahさんは教育分野のバックグラウンドを持っていたことがわかります。
【食事】08:39~
酒に関わるということは、食事と関わることでもあります。Rebekahさんの家族は食べ物を自前で育てており、食事を大事にしていた家族でした。また食卓にはいつも食事と一緒に楽しむためのワインがありました。
来日後、彼女の食との関係性はよりヘルシーなものに変化しました。伊豆半島で英語を教えるために来日した直後、すぐに地元のコミュニティから歓迎を受け、最初の食事に金目鯛のみそ漬けと日本酒をご馳走になりました。これがRebekahさんの人生を大きく変えることになる日本酒との出会いでした。
この酒との出会いがきっかけで、日本の他の地方の食文化と酒を巡る旅をしたいと考えるようになりました。
それぞれの地域の食と酒には豊かな歴史が存在するため、その関係性を学ぶことはとても重要なことだとRebekahさんは考えています。
【酒に関わるプロフェッショナルへ】15:35~
英語教師の傍ら、Rebekahさんは”Ichi for the Michi”という会社を作り、酒グルメガイドとしての活動を始めました。これは、彼女が過去に東京で参加してみた観光客向けのsake experiencesのアクティビティがあまり満足いくものでは無かったと感じたため、それならば彼女自身のsake roadをシェアしていけば良いのではないかと考えて始めた活動でした。
この活動の参加者はシェフが多く、食を通して酒の世界を紹介するという内容でした。しかしこの活動を行っていくうちに、もう少し酒について勉強が必要なのではないかと感じ始め、日本酒の講座を受講することを決意しました。SOAのホストの一人でもあり、日本酒の講座で講師を務めるJohn Gauntnerさん、そして彼の日本酒に関する本に出会ったのはその頃です。
東京でJohnさんの講座を受講し、日本酒への知識とともに興味も深めたRebekahさんは、日本酒のさらに深い知識を身につけるためには、それと深く関係している日本の文化や歴史を知ることが重要だと考えました。そしてもう一つ講座を受講し、より説得力のある日本酒の知識・説明を身につけたことで、次のステップへの道が開けました。
【酒のアドバイザーとして】20:18~
この頃、ノルウェー発祥のカフェ、Fuglen Tokyoから酒のアドバイザーとしてのジョブオファーが届き、Rebekahさんはこのカフェのオープニングに合わせてオリジナルの酒のテイスティングメニューを作りました。これは味だけではなく、酒造業界のトレンドなどについても説明したもので、とても斬新でインパクトの強い内容でした。
この仕事がきっかけで、当時、自身のコンセプトを反映したカフェをデザインしていた著名なアーティストである村上隆さんから酒に関するセミナーの開催を依頼されました。この出会いは、Rebekahさんにとって大きなターニングポイントとなりました。
【Japan Craft Sake Companyとの出会い】24:04~
こうしたステップを踏みながら酒のプロフェッショナルとして歩み始めたRebekahさんは、酒関連のイベントに顔を出す機会が増えました(ちなみに、こうしたイベントに常に足を運ぶことは勉強や情報のアップデートに役立つのでオススメだそうです)。
そして、元サッカー日本代表選手で、現在はJapan Craft Sake Companyの代表取締役を務める中田英寿さんと会って話を重ねるうちに、日本酒市場に存在するギャップを埋めるためにお互いが描いている目標に共通点が多いことに気が付きました。あえて一言でいえば、それは酒文化への関心を高めることでした。
そして、Rebekahさんは中田さんの会社に入るという大きな決断を下し、彼の下で2016年にはCraft Sake Weekを開催しました。このイベントは、日本酒業界にとって、新たなファン層を開拓する貴重な場になり、現在では世界最大の酒イベントに成長しました。
【テイスティング】33:43~
Rebekahさんは多くの酒関連のコンペティションに審査員として参加してきましたが、IWC(International Wine Challenge)のSake Competitionに初めて審査員として参加した時はとても緊張した記憶があるそうです。なぜなら、自分とともに並んでいた審査員は長いキャリアを持つワインソムリエばかりで、気後れしてしまったからだそうです。
しかし、経験を重ねるごとに審査員の仕事も緊張することなくこなせるようになりました。Rebekahさんがテイスティングの際に魅了される酒は、飲む前に感じる香り(アロマ)と、実際に飲んでみて感じる味わいにバランスと一体感があるものだそうです。
【まとめ】37:15~
酒に関わりながら海外に出かけたり、酒が世界のどこでどう見られているのかを考えることはとてもエキサイティングであるとRebekahさんは言います。酒自体、その楽しみ方、食事、文化などすべてが絶えず変化しており、彼女自身もまだまだやることがたくさんあると感じています。
今後もさまざまな場所を訪れ、その土地の文化などを学びながら楽しくやっていきたいと抱負を語っています。
【Johnさんの紹介~酒のエキスパートとしての活動】40:00~
Johnさんは1988年に来日し、1989年の元旦に初めて酒を飲みました(よく正確に覚えているなと思いましたが、おそらく正月のお祝いで飲んだのでしょうか)。しかし、酒に関わる活動を開始したのは1993年のことでした。
その頃、彼は新聞のコラムを書いていたのですが、自分が書く内容についてはよく知っておかなければいけないと思い、酒についての勉強を始めました。酒について知れば知るほど興味が深まり、ついには彼のコラムを読んだある人物から酒についての本を書いて欲しいという依頼が届くほどの知識を身につけました。
その後もウェブサイトを作ってほしいという依頼から、また別の本の執筆依頼が届くといったことが続き、今までに数冊の本を出版しています。そのうちのいくつかはJohnさんの奥さんによって翻訳され、日本語版も出版されています。
またJohnさんにはアメリカで勉強しているお子さんが二人おり、来年には日本に帰ってくる予定だそうです。
【酒に飽きることはあるか?】46:23~
インタビュアーのFrankによる「”Does sake get boring?”(酒に飽きることはあるか?)」という質問に対し、Johnさんは、酒自体には飽きることはないが、何度も同じ場所やイベントに行くと飽きてくるため、たまには変化が必要だと答えています。新しいブランドや商品は絶えず出てくるので、それは飽きないとも述べています。
興味深い事例として、例えば、伝統的な手法に回帰して酒造りを行っている酒造や、酒業界が苦手としてきたマーケティングの改善を試みる酒造などがあることに触れています。
【Teaching】51:31~
Johnさんは日本とアメリカの両方で多くのセミナーの講師を務めています。セミナーで使用する酒を選ぶ際には、例えば、「この麹を使ったらどういう味になるのか」、「使用する米の違いで酒の味にどのような差が生まれるのか」など、毎回セミナーのテーマに沿って選ぶようにしています。
またアメリカでセミナーを行う際には、できるだけ現地で手に入る酒を教材として調達するようにしています。ただし、日本以外では手に入らないもの(例えば、生酒など)もあるため、そういった場合は自前のワインケースに入れて持っていくそうです。
【Johnさんの酒の飲み方】54:38~
Johnさんは常時約50本の酒を所有しており、一年寝かせたらどう味が変わるかといったような小さな実験を行っています。
酒を飲む際は利き猪口(底に青い蛇の目が入ったお猪口で、杜氏は酒造でこのタイプのお猪口を使う)を使うことを好みますが、カジュアルに酒を楽しむような場面では普通のお猪口も使います。また、日本の陶器類は酒を飲む時間をより視覚的に楽しくすると述べています。
ちなみに日本酒以外では、焼酎は全く、ワインはほとんど飲みませんが、ビールと泡盛は好きだそうです。
【最も興味深かった(おかしな?)Sake Experience】60:22~
大吟醸酒のBlind Tasting(ドリンクを見えないようにして当てるゲーム)をしていたときのことです。そこには800以上の酒が並べられており、真ん中にテイスティングした酒を吐き出す桶が用意されていました(800以上の酒を飲むのは不可能なため)。
Johnさんは何度かテイスティングした酒をその桶に吐き出しました。それを見ていた反対側にいた男性が、同じように吐き出そうとしたところ、Johnさんもちょうど同じ桶に酒を吐き出そうと顔を下げていたところで、頭から酒を吐きかけられてしまった、という経験がJohnさんのMost Curious Sake Experienceだそうです・・・
【大好きな酒に関する執筆の仕事】64:49~
本人も意外だと述べていますが、酒に関する執筆の仕事がJohnさんが最も楽しいと感じる仕事だそうです。執筆を始めて25年になりますが、今でも飽きずにこの仕事を楽しんで続けています。
酒造を訪問したり、酒造りに関わる機械技術や哲学を見て学ぶことももちろん大好きです。
執筆に関しては特に自分の中で決まった段取りは無いそうですが、締切ギリギリまで完成を引き延ばすタイプではないようです(ところでエピソードとは関係ないですが、嫌なことや面倒なことを後回しにすることを英語でprocrastinationと言います。覚えておくと将来きっと使うチャンスが来ます)。
【酒と食、最近のプロジェクト】68:29~
外に飲みに行くときは立ち飲み屋よりも、馴染みのある美味しい料理と酒があるお店に行くことが多いと言います。
Johnさんにとっても酒と食は切っても切り離せないものであり、それらはお互いを引き立てあう関係にあると述べています。お気に入りの肴は珍味で、塩気が強くて匂いも強めのものは酒によく合うことが理由だそうです。
そして直近で取り組んでいる最も新たなプロジェクトが、ニュースレターの配信です。これは世界中の人々と日本の酒業界を繋ぐことを目的としています。より詳しい情報はJohnさんのウェブサイトからご確認いただけます。
【編集後記】
今回は日本酒の海外マーケティングの分野で大活躍されているお二人にお話を伺いました。今までのKnow Your Hostsシリーズに登場したホストたちと同様に、RebekahさんもJohnさんも、自分の興味のあるものを追いかけ、突き詰めることでさまざまな機会やスキルを掴んできたことがよくわかります。
また、これだけ日本酒の業界で活躍してきた実績を持ちながら、常に新しいものを学び、アップデートしていこうというお二人の姿勢は見習うべき点であると感じました。そして、そのような姿勢を忘れないでいられる理由は、自分の好きなものへの情熱を変わらずに持ち続けているからなのでしょう。
【SOAについて】
SOAは日本酒造組合中央会(JSS)さんの後援を受け、日本在住アメリカ人のJustin PottsさんをはじめとしたSakeに情熱を燃やす外国人たちが毎回入れ替わりでホストを務め、2週間に1回のペースで新たなエピソードを公開しているポッドキャスト番組です。EXJは公式ウェブサイトの制作を手掛けたほか、毎エピソードの制作に携わっています。