OTAを利用した、インバウンド向け体験コンテンツのヒットのさせ方
ジャパンガイド観光庁案件で増加する「OTA利用」の文言
新型コロナウイルスのパンデミックによりしばらく停止した時期もありましたが、ここ数年、観光庁では「タビナカのアクティビティ/ツアー」に類するインバウンド向けコンテンツを充実させようという傾向があるのが伺えます。
そうした案件の中で、「OTA利用」に言及した案件も増えています。例えばコンテンツ造成の条件としてOTAに登録することを指定していたり、補助対象の中にOTA登録に関わる費用が含まれていたり、事業の成果物がOTA登録のために必要な情報のまとめであったり、といった具合です。
このような傾向を踏まえて、アクティビティ/ツアー系コンテンツ×OTAで商品をヒットさせる方法やそもそもの考え方について、以前旅行会社に勤めていてインバウンド向けにツアー造成/OTAハンドリングを担っていた立場から、以下OTAについて解説させていただきます。
インバウンド向けマーケティングにおけるOTA利用メリット
最初になぜOTAを使用するのかを考えるため、以下OTAによって実現できる様々なソリューションについて触れたいと思います。
マーケティング用語に、「AIDMA(アイドマ)の法則」と呼ばれるものがあります。
消費者の消費行動は、
認知(商品を知る)→興味(関心を持つ)→欲求(欲する)→記憶(商品のことを覚える)→行動(購入する)
という段階プロセスに則って行われる、というロジックです。
インバウンド向けのツアー/アクティビティ商品の場合でも、概ね上記のロジックは当てはまりますが、日本の事業者にとって苦労させられるのが最初のAの段階です。
外国人旅行者に自分達のツアー/アクティビティをどうやって知ってもらうのか? というのは、簡単なことではありません。自社webサイトの多言語化、SEO対策や広告の出稿、SNSでの拡散など、施策は様々ですが、これらを文化的背景やライフスタイルに差異の大きい外国人にも刺さるよう工夫しなければなりません。
また、うまく最初のAの段階はクリアしてサイトに人を呼び込めたとしても、どんな人を集められたかが重要です。訪日旅行中に参加してもらうツアー/アクティビティを販売するわけなので、外国人ならば誰でもいいわけではなく、日本を訪れる予定の外国人、または日本滞在中の外国人に対して知ってもらう必要があります。ここが不十分だと、次のIやDの段階には至りません。
このように考えていくと、自社webサイトのみで販売するマーケティングは一筋縄ではなく、また時間がかかるものであることもイメージして頂けるのではないかと思います。
OTAを利用すると、上記のような面でかかる労力を大幅に省略して販売を狙うことができます。OTAでの販売を、自社サイトでの販売との比較でイメージしやすいように例えると、次のようになります。
自前のWebサイトが左側の、周りに何もないところにポツンと建った個人店舗であるとすると、大手OTAは右側のショッピングモールのイメージです。周りに何もないところにある個人店舗で集客をするには、自ら人を引っ張ってこれるよう様々なことをやらなければなりません。
それに対して、ショッピングモールにあるお店なら、特に自分のお店を目当てで来たわけではない人が、通りがかりにこちらの商品に目を止めてくれる可能性もあります。OTAはこのイメージです。
また、訪日旅行に何の関心もない人がサイトを訪れてもツアー/アクティビティ商品の購入を見込むことは難しいですが、旅行商品を目当てでユーザーが集まるOTAならば、確度の高いユーザーと出会う可能性が高いというわけです。確度が高いユーザーである以上、商品に関心を持ってもらえる可能性もより高くなります。
先ほどのAIDMAの法則で言うと、OTAを利用すると、次のようになります。
・必ずしも認知度を向上しなくとも、商品を見てもらう機会を増やせる(最初のAの段階の省略)
・商品を見て興味や欲求、記憶の段階に移行しやすいユーザーにリーチできる(I~Mへの促進)
その他にも、取引がOTA-ユーザー間でなされるため、元々そのOTAを利用しているユーザーにとっては購買へのハードルが低いことや、ユーザーに対してどんな情報をどのように見せるかをOTAのフォーマットに則った形で行えること、各種サポートや決済・予約・在庫管理機能などが搭載されていることなども挙げられます。
ただしこれらはいずれも適切なOTAを選んでいることが前提となります。というわけで、次にインバウンドのツアー/アクティビティ系コンテンツを販売するOTAについて紹介させていただきます。
掲載するOTAの選び方
OTAと一口で言っても、Booking.comのような宿泊系や航空券を手配するSkyscannerのような交通手配系と、ツアー/アクティビティ系のOTAは別物です。
実際には宿泊系OTAであるBooking.comやExpediaもツアー/アクティビティ系コンテンツの取り扱いはあるのですが、それらのメインのコンテンツはあくまで宿泊予約です。「より確度の高いユーザーへのリーチ」を考えるならば、宿泊施設を探すユーザーがメインで訪れるOTAよりも、体験コンテンツを探すユーザーが訪れるOTAのほうがエンゲージメントは見込めます。そのため、特別な理由がない限りはツアー/アクティビティ系コンテンツをメインで取り扱っているOTAへの掲載を推奨します。
ツアー/アクティビティ系メインのOTAでも、実際には大小様々なものがあります。少しでも多くの予約を獲得したいのであれば、大手のOTAを使用するようにしたほうが賢明です。掲載OTAを検討するにあたっては観光庁のレポートがあり、参考になります。
観光庁:OTAの概況および特徴と標準的なフォーマットの利用マニュアル(資料編)
英語圏向けのOTAで言うと、上記資料のうちViator、Getyourguide、Klookの3社が大手となります。
違いは多々あるのですが、ざっくりとまとめると次の通りです。
・北米市場を中心に世界中で使われており、TripAdvisorとも連動している最大手のViator
・欧州ユーザーや欧州旅行が好きな米国ユーザーなどが主な利用者であるGetyourguide
・メインの市場は中国語の台湾などだが、英語を使うアジアの市場全般にも影響力の大きいKlook
ちなみにViatorやGetyourguideは販売手数料20%、Klookは細かい条件設定があるようですが15~20%程度です。そのため、商品の料金を検討する際には、この点を十分考慮に入れ、OTAに2割売り上げを持っていかれたとしても十分に利益が見込める価格設定をすることが重要です。
少しでも多くのユーザーにリーチできることが重要であるため、英語圏の中で特にどの市場をという明確なターゲットがない場合、まずは最大手のViatorを検討してみましょう。
本当のゴールは、コンテンツをヒットさせること
冒頭でも触れた通り、観光庁事業等でOTAへインバウンド向けツアー/アクティビティ系コンテンツを掲載することを条件や補助対象とした内容のものが年々多くなっています。このこと自体はこれまでOTAに関わってこなかった地域や事業者の方々にとっても新鮮な良い経験となることでしょう。
しかし、行政案件の範囲だけでなく、ビジネスとして先を考えていく場合、OTAへのコンテンツ掲載はあくまでスタート地点です。そして本当のゴールはコンテンツをヒットさせていくことです。
とはいえ、たとえ最大手のViatorに登録したとしても、ヒットさせるのは簡単なことではありません。
そこで、以降の稿ではOTA登録後に商品をヒットさせるために重要な点に触れていきます。
まずは、少しでも掲載順位を上げられることを目指しましょう。
OTAは地域毎やカテゴリー毎などでコンテンツをリスト的な形で表示しますが、重要なのは、ここで少しでも上の順位にくることです。
例えば「京都」で最高位にくるアクティビティの場合、京都でツアー/アクティビティを探しているユーザーの目には必ず触れる可能性が高まります。実際にはさらに地域の中でどんなカテゴリーのアクティビティかによってさらにカテゴライズされていますので、京都のような競合が多い地域では、京都の何のカテゴリーで上位を目指すかの戦いになってきます。
この掲載順位に影響を与える要素はOTAによって様々ですが、主に次のようなところがあります。
ー掲載画像の数が一定以上かどうか
ー掲載画像の質(OTA次第で、ゲストが楽しんでいる様子が評価されるものもあれば、カメラ目線でポーズしているような画像は「わざとらしい」として評価しないOTAもあります)
ーコンテンツ説明の内容(適切な英語表現か、基準とする文字数か、ユーザーが必要とする情報が入力されているか、等)
ー料金設定(特に海外OTAによっては$や€などで設定する必要があり、その場合はレート変動の影響を受けるので要注意です)
ー在庫設定(直前~数か月後まで、場合によっては一年程度、幅広く開けているほど有利です)
ーキャンセルポリシー(ユーザーに優しいものほど評価が高まります)
ー参加条件(ユーザーに優しいものほど評価が高まります)
これらはOTAのサプライヤーサポート等で適切に助言してもらえたり、一覧にされていたりするので、しっかり把握しておくようにしましょう。
また、ログイン頻度や情報の適切なアップデートなども掲載順位に影響する場合があるため、できるだけ管理画面にログインし、頻繁に情報をチェックするように心がけましょう。
重要なのは、5つ星の口コミを獲得するための戦略
ただし、こうした登録内容以上に影響力があるのが口コミです。どのOTAでもほぼ共通で、口コミは掲載順位をあげるために最重要なものとなっています。
5つ星の高評価レビューが多数つけばつくほど掲載順位は有利になります。そのレビューがしっかりした内容のコメント付きであったり写真付きである場合には、より評価があがります。
また、口コミは掲載順位を上げるという意味で絶大な影響力を持つと同時に、それを見たユーザーの購買の決め手にもなる重要な要素です。
また、比較的最近の口コミほど評価がされやすい傾向にあるため、一度口コミを取ったからOKなのではなく、常に新しいものを付けてもらえるようにもする必要があります。
多くのOTAにおいて、コンテンツ掲載開始当初は新商品ということでユーザーの目につきやすいようにしてくれる仕組みとなっています。そのおかげで、登録内容さえしっかりしていれば、掲載開始後しばらくはある程度の数の予約が入るかもしれません。
しかし、”新商品”の期間を過ぎるまでに十分な数の口コミを獲得できず、掲載順位を向上させることができなかった場合、残念ながらやがて販売数は減少してしまいます。
そのため、コンテンツをヒットさせるには、まず5つ星の口コミを獲得できるようにすることが重要です。
5つ星の口コミを書いてもらい、投稿してもらうこと。その戦略を立てるためには、これがどれだけ大変なことかを理解していただく必要があります。
逆の立場で考えてみましょう。例えば1週間の貴重な休暇期間を得て、家族でアメリカ合衆国に旅行したとします。旅行中に様々なことを満喫し楽しもうとされるのか、ひたすらゆっくり過ごしたいと思うかは人それぞれですが、いずれであっても旅行中の時間が限られていることは共通です。そのような旅の最中で、たとえば参加した日帰りツアーの口コミをわざわざ書こうとするでしょうか? または、旅から戻ってまた忙しい日常に戻った後に書くでしょうか? どちらの場合でも余程強い気持ちがないとその気にならないのではないでしょうか。
5つ星の口コミをゲストに求めるのがいかに大変なことであるかは、自分自身がどうするかを想像するとイメージしやすいのではないかと思います。
OTAで成功するには、参加してくれたゲストを「口コミを書くための余程強い気持ち」になってもらう必要があります。口コミを書いてもらうためにクーポンやギフトを活用する方法もありますが、それらもコストを考えるとできることは限られており、また高単価・高付加価値な商品になればなるほど相手も富裕層になりがちなため、効果は薄めになりがちです。あくまで補助程度に考えたほうが賢明です。
最も効果が高いのは、ゲストの期待に見合う満足や感動を提供した上で、「ぜひ口コミを書いていただけると嬉しいです」とお伝えすることです。十分な価値を提供した上で、自信を持ってそうお願いできることが最も成功率の高いアプローチだと言えるでしょう。
そのためには、ゲストが何を期待して予約するかを把握し、それにどう応えた上でどこでどんな風に感動してもらうか、その部分を戦略的に突き詰めることが重要です。といってもあまりにも型に落とし込むとイレギュラーに弱くなってしまうため、ポイントを抑えつつも状況や相手に応じてある程度の柔軟性は持った上で、ゲストへの価値を提供するようにしましょう。
難しく感じる場合には、モニターツアー等で試行錯誤や練習を繰り返してブラッシュアップしていくのが効果的です。
そうして商品を磨き価値を引き上げていくことは、OTAでのマーケティング上でも極めて大事であると同時に、そこだけに留まらない効果を有します。
まとめと注意点
ここまで、OTAに掲載したコンテンツをヒットさせるために重要なことを、そもそものOTAへの理解の部分から解説してきました。まとめると次の通りです。
・確度の高めなユーザーに、知名度に関わらず見てもらえる機会を高められるのがOTA利用のメリット
・ツアー/アクティビティ系コンテンツを掲載するなら狙いたいのはツアー/アクティビティ系特化の大手OTA(英語圏向けならViator、Getyourguide、Klookなど)
・掲載したらOTA上の評価の仕組みを理解し、できる限り掲載順位を向上させられることを目指す
・最も重要なのは参加したゲストに5つ星の口コミを書いてもらえるための戦略であり、具体的にはそのための商品の磨き上げ
以上です。
最後に、OTAを利用する上での注意点に触れさせていただきます。
途中で触れた通り、本当のゴールはあくまでもコンテンツをヒットさせることです。OTAはあくまでそのためのひとつのチャネルであり、ツールに過ぎません。
短期~中期的には、上手く活用できればOTAは非常に大きな効果をあげてくれます。
しかし、長期的に考えていく場合、やがてOTAだけでは不十分に思える時が来ます。
というのも、どれだけOTAでのマーケティングを成功させても、結局影響力はそのOTAの中だけに留まってしまいがちだからです。コンテンツ名や事業者名の知名度が上がるわけではなく、OTA側の運営上の事情で何かが起きた際にはこれまでの努力が水泡に帰してしまうリスクもあります。
私自身の経験を言うと、京都という地域で掲載順位を最高にまで押し上げることに成功した数か月後に、OTA側での評価基準が切り換えられてしまい、せっかく獲得したばかりの最高位を別の事業者に明け渡すことになってしまったことがあります。また、頻繁に予約が入って多数の口コミを獲得していた売り上げの柱のようなOTAが、突如サービスを停止させてしまったこともありました。
短期~中期的な売り上げの向上のためにOTAを活用する効果は大きなものがありますが、ある程度OTA活用が軌道に乗ったら、今度はぜひ長期的な目線に立ってSEO対策やUI/UXの改善などを戦略的に実施して自前のwebサイトでの販売を強化し、売り上げのバランスを取れるようにすることを推奨します。
弊社エクスポート・ジャパンではそのために必要な多言語web制作やローカライゼーション、ジャパンガイドを使ったプロモーションにて自社サイトへの流入強化などといったサポートも承っています。OTA中心の売り上げから自前のチャネルでの売り上げの割合を増やしていくことをお考えの方は、ぜひご相談ください。