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ヨーロッパ(EU)の薬品パッケージのスタンダード

アクセシブルコード
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K. Wozniak

日常生活の中で、深く考えずに物を手に取り、そのまま使用することが多いですが、その際、小さな変化が生じてしまうだけで、今まで気付かなかったことに気付き、違和感を覚えてしまうことがあります。ヨーロッパで生まれ育った私にとって、日本で購入した薬はまさにそうでした。

薬の購入

ビタミン剤や頭痛薬、目薬など、処方せんが不要な薬の場合、日本ではドラッグストアへ足を運ぶことが多いかと思いますが、ヨーロッパのドラッグストアで並んでいるのは日常用品ばかりで、セルフサービスで購入するのは、頭痛薬ぐらいです。一方、処方せんが要らない場合でも、薬局へ行き、薬剤師との相談の上で薬を買うことが一般的です。また、薬局の見た目も少し異なっており、ヨーロッパの場合では、薬剤師の後ろの壁には、それこそドラッグストアのように、テレビのCMで良く見られるような色とりどりの箱が多く並んでおります。ですので、気軽に相談できる雰囲気もあり、自分でそれぞれの薬の情報を確認しなくても済みます。(もちろん薬剤師のおすすめの薬品の内容は帰宅後改めて確認します!)

ポーランドの薬局のイメージ (source: https://praca.farmacja.pl)

処方薬の場合

処方せんを持って、薬局に行く時の状況も海外と日本では異なります。日本では、必要な分の医薬を封筒にいれてもらい、別途プリントアウトされた紙にはその薬の詳細が書かれた説明書も付いてきます。「お薬手帳」を活用する人もいます。こちらは当たり前の流れになっているので、他の国ではどうなっているか、と考えることは少ないかもしれませんが、アメリカの映画やドラマを見ている時だけでも、主人公が飲んでいる薬がオレンジ色など、カラフルな瓶に入られているシーンもよく見られます。ヨーロッパではまたそれと異なって、処方薬でも添付文書付きのオリジナルパッケージで販売されています。そのため、パッケージ及び添付文書に掲載されている内容は非常に重視されています。

パッケージの違い

日本に引っ越してきて、薬品の購入時に違和感を感じたのは、パッケージのデザイン等ではなく、いつも指の下でひそかに感じられる「凸凹」がない、というところでした。

欧州連合(EU)の各国では、障害者対応とバリアフリーが非常に重視されています。医薬品パッケージの読みやすさに関するガイドラインがあり、そこには下記の文章が記載されています:

”7. Blind and partially-sighted patients
Article 56a of the Directive requires the name of the medicinal product (as referred to in
Article 54(a)) to be expressed in Braille format on the packaging. (…)”[1]

つまり、病院の処方薬からドラッグストアで購入できるOTC医薬品まで、医薬品とされる物であれば、そのパッケージには製品名を点字で付けなければなりません。それが長年EUでの一般的なスタンダードとなり、日常生活の一部にもなっています。そのため、日本のパッケージには同様のソリューションがないことに関して逆に違和感を覚えてしまいました。

風邪薬パッケージの点字

デザインへの点字の影響

触ってみれば気づきますが、パッケージのデザインにも影響があるのではないか?と疑問に思う方もいるかもしれません。点字の場合、エンボス加工を使えば、その位置等にはかなりの自由度がありますし、何より、晴眼者向けの文字があるところに点字を載せても、文字が読みにくくなることはほとんどないため、本来のパッケージデザインには影響がほとんどないと考えてられます。実際、手元にある薬の大半は点字が裏側の説明の部分に配置されているため、読みにくいと感じることはありません。

また環境面において日本とヨーロッパでもっとも異なるのは地震の有無だと思われます。ヨーロッパの場合、地震が稀なため、揺れの影響でパッケージがドラッグストアや薬局の棚から落ち、ダメージを受ける恐れが少なく、点字以外のところでも、製品名などアルファベット文字のエンボス・デボス加工がされていても問題になることがほとんどないと思われます。そういった側面で見ると、EUで導入されているソリューションは地震が多い日本において最適でないかもしれませんが、アクセシビリティの観点から言いますと、お店では相談できる薬剤師がいても、家に持ち帰った後でも視覚障害者の方自身でパッケージを区別できる方法があるだけで薬がよりバリアフリーになると思われます。


そこで、製品名だけでなく、使い方や成分など、より詳しい情報を視覚障害者の方々に届ける方法の必要性から生まれたのが Accessible Code でした。パッケージの僅かなスペースで、QRコードのテクノロジーを通じてより多くの情報発信が可能となり、日本の環境に適用したアクセシビリティ対応に繋がると思われます。こちらに関しても、当事者のニーズに応えるためにはさらなる改善や工夫が必要だと思われますが、新スタンダードのパッケージに近づくための大きな一歩だと思われます。