【誰でもできるインバウンド調査】オープンソースから探る地域観光資源の価値
ジャパンガイドターゲットを決めてインバウンド誘客に取り組んでいく上で、地域観光資源の価値を正しく把握することは非常に重要なステップです。
というのも、誘客プロモーションの際に見せるモノやコトも、地域を訪れた旅行者に提供できるモノやコトも、その地にあるコンテンツによって規定されるからです。
できたらターゲットを決めるよりも前に、地域観光資源のインバウンドにおける価値をできるだけ高い解像度で把握しておきたいところです。
しかしここで注意したいのは、ターゲットを定めて地域観光資源をインバウンド誘客施策に繋げていくにあたって、単に地域の観光資源を知っているだけでは不十分だということです。
ーどの観光資源がどこのどんな人達に高く評価されやすいのか?
ーその観光資源のどんなところがその評価の理由になりやすいのか?
ーその訴求力は、旅行目的地の決定要因になるほどのパワーを持つものであるか?
ーどのような見せ方をすればその訴求力を発揮できるのか?
ーその地域観光資源だからこその特色は何か?
そういったあたりまで踏まえた上で地域にある観光資源のポテンシャルをできるだけ高い解像度で把握し、その内容に見合う形でターゲットを決めていけるのが理想です。
しかし、観光資源の価値やポテンシャルは、その地域の人々にとって把握しづらい部分です。
これは、あまりにも見慣れすぎてしまっていることが原因です。
よそから訪れた人の目に地域観光資源がどう映るかを地元の方々が想像するのは簡単ではありません。
また、旅行者の多様性の問題もあります。どの国のどんな人が何に価値を覚えるのか。
問いが多岐に渡りすぎてしまうと、想像力を働かせるにも限界があります。
無料で訪日旅行者の声を確認できるツールとしてのTripAdvisor
こうした課題へのソリューションとしてよく用いられるのはアンケートによる意識調査ですが、コストや調査方法がネックになってしまい、いつでも手軽に出来る手段というわけではありません。
そこで、今回は地域観光資源のインバウンドにおける価値を知るのに便利なアプローチを紹介させていただきます。
無料のオープンソースを使用するので、インターネットさえあれば誰でも実践が可能です。
使用するのは、世界最大の旅行情報サイト、TripAdvisorです。
皆様はTripAdvisorをこれまで実際に使用されたことはありますか?
あるとしたら、旅行で訪れる予定の観光施設についての情報をチェックする際ではないでしょうか?TripAdvisorは世界各国の様々な旅行施設やサービスの情報を網羅していますが、特に旅行者にとって参考になるのは口コミ情報です。
スポットごとにユーザーが投稿した口コミが表示され、数値とコメント文章の両方で施設が評価される仕組みになっています。
悪質な業者の手が入りにくい設計になっているのが特徴で、そういった観点からもTripAdvisor上のレビューはユーザーからReliable(信頼できる)情報として参照されることが多くあります。
このTripAdvisorの口コミ機能は、インバウンド担当者が自分の地域の観光資源についての理解を深める目的でも活用できます。
以下、どんな風に活用できるかを簡単に紹介します。
地域観光資源のインバウンド評価確認方法
まずは、TripAdvisor上で、調べたい地域名を入力し、検索結果に飛びます。
今回は例として「Nikko」で検索してみます。下図のように「DESTINATION」として地域が表示されるので、クリックしてみましょう。
特定のDESTINATIONのページに飛ぶと、このように宿や観光アクティビティ、食、フライトなどの項目でジャンル分けされているのが確認できます。
今回は観光資源についてを見たいのですが、これらは「Things to Do」の中に体験コンテンツやツアーコンテンツと共に掲載されているのでそちらをクリックします。
クリックした先ではツアー情報などと共に観光施設一覧「Top Attractions」があるので、こちらの詳細「see all」を表示してみます。
次のような形で、TripAdvisor上での評価が高い順に、該当地域の観光スポットが表示されます。
この順番は、ユーザーレビュー(口コミ投稿)の数や質、頻度、さらには最新のレビューの時期などによってTripAdvisorのアルゴリズムで決定されるものです。
ここで出される順位は全てのレビューを総合したもので、インバウンド限定の評価というわけではありません。
日本人だけに人気なスポットも中国人だけに人気なスポットも区別なくアルゴリズムに基づいて表示されます。
そのため、この順位自体は一旦気にせず先に進みます。
今回知りたいのは、各観光スポット・コンテンツに寄せられているユーザーからの評価ですので、個別のスポット名をクリックし、その詳細を閲覧します。
まずは先頭の「Nikko Tosho-gu」のページを見てみましょう。
https://www.tripadvisor.com/Attraction_Review-g298182-d1311878-Reviews-Nikko_Tosho_gu-Nikko_Tochigi_Prefecture_Kanto.html
(上記リンクをクリックし、実際のページを閲覧しながら読み進めてみてください。)
ページ上部では3,000件以上ものレビューがこれまでに寄せられていることと、レビュー評点が5.0満点で4.5であることがわかります。
下のほうにスクロールしていくと、実際のレビューを確認できますが、その少し上の画面をご覧ください。下図のような項目が見当たります。
この部分では、レビューを特定のキーワードで検索して抽出したり、レビューの点数によってフィルタリングすることに加えて、言語毎での絞り込みも可能です。
「English」というボタンをクリックすると、プルダウンで言語ごとのレビュー数が表示されます。
ぜひ実際の画面も操作してご覧ください。
2024年5月27日現在では、全言語のレビュー3,647件に対して多い順に日本語レビュー1,743件(約48%)、英語レビューが905件(約25%)、中国語簡体字が182件(約5%)、繁体字が173件(約5%)……となっていることがわかります。
このように見てみると、日光東照宮はインバウンドに人気なスポットと言ってもアジアの国々より英語圏の人々のほうがより多く訪れている場所であることが伺えます。
解像度を高めるためには、詳細に眺めてみましょう
実際に訪れた人がどのような評価をしたかをその下の欄で各コメントと採点で見ることができますが、評価点に基づいて、例えば英語の★5レビューだけをフィルタリングして表示させることも可能です。
レビューが多くついているスポットやコンテンツの場合、このように言語と点数で絞り込んで表示させるのが把握するために効果的です。
上図は★5の英語レビューのみを表示したものです。
この二つのコメントだけからも様々なことが洞察できます。
例えば一つ目のコメント主であるニュージーランドからの旅行者は、5月に夫婦で東照宮を訪れて「非常にフォトジェニックだ」「絶対に訪れるべき場所だ」と感想を述べています。
「shogun」との言及もあることから、一定以上歴史的経緯にも関心があることも伺えます。
一方で時季によっては非常に混雑するので早朝や昼過ぎに訪れるのがオススメであるとも述べています。おそらく、この方が訪れた際には非常に混みあったのでしょう。
2つ目のコメントは(ユーザーの名前をクリックすればプロフィール欄も確認できるのですが)、ドイツ出身で沖縄在住者によるものです。
東照宮は日光を訪れる目的となるスポットであると述べており、自然や五重塔の美しさにも触れつつ、混雑にも言及しています。一方で東照宮のことを「temple」と言っている点には注目です。
これだけ現地を訪れて感動を覚えてくれた旅行者にも、東照宮がどんな場所なのかは正しく伝わっていないことが感じられます。
このような形で個別のレビューに目を通していくと、各観光資源に対してユーザーがどのような点で感動したのか、どのような部分に満足したのか、あるいは不満を覚えたのかなどを定性的に見ることができます。
またさらに、言語+評点で絞り込んだ場合、下までページをスクロールすると次のような形でその言語+評点の組み合わせでのレビューの数を知ることもできます。
(下図の場合、日光東照宮の★5英語レビューは600件)
少々手間ではありますが、こうした形で各言語・評点ごとのレビューの数を出していけば、スポットやコンテンツが現状どんな旅行者から特に評価されているのかを確認することができます。
また、同じ地域にある観光スポット・コンテンツを比較してみると面白い発見があります。
例えば、先程みた日光東照宮のレビューは日本語約50%:英語約25%:中国語繁体字簡体字あわせて約10%:その他15%といった比率でした。
これが別のスポットではどのように数値が変わるのかと比較してみると面白いことが見えてきます。
わかりやすい例としては、地蔵群のあることで知られる憾満ヶ淵の渓谷の例が挙げられます。
https://www.tripadvisor.com/Attraction_Review-g298182-d1311902-Reviews-Kammangafuchi_Gorge-Nikko_Tochigi_Prefecture_Kanto.html
TripAdvisor上でレビュー合計201件で評点4.5の17位と、東照宮に比べるとかなりレビュー数は少なくなるのですが、言語別で見てみると201件のうち日本語のレビューはわずか52件(約26%)で、英語が97件(約48%)と東照宮とは逆転する現象が起きています。
さらに先程の方法で★5レビューの数を見てみると60件であることが確認できます。
英語レビュー97件中の60件が★5なので、約62%にあたります。
このスポットに何らかの英語圏旅行者の印象に強く残る、感動的な要素があることが推測されます。
実際に寄せられた★5レビューの中身を見てみると、旅行者がこの場所のどんなところを高く評価したかがわかります。
ちなみに、TripAdvisor上でのこうした英語レビュー評価の高さの裏付けになりそうなデータとして、japan-guide.com上での憾満ヶ淵の得点は次のようになっています。
輪王寺や二荒山神社といった日光を代表するスポットと比較すると、訪問数(👣)は大きく劣りますが、評点では4.1とその2か所を上回っています。
知名度や現地での導線の問題もあり、おそらく知る人ぞ知る場所といったところですが、訪れた人の満足度は高く、ポテンシャルを感じる観光資源です。
最後に
以上、あくまでわかりやすい例として日光のスポットを取り上げてみましたが、他地域のスポットでもそれぞれの特色がTripAdvisorのレビュー上に現れます。
皆様の住んでいる地域の観光資源についても同様に調べてみると、新たな発見や気づきがあるのではないでしょうか。
このような形で地域観光資源についてTripAdvisor上でレビューの言語と評点毎の比率、ユーザーがつけているコメントの内容などを細かく見ていくと、既にその地を訪れた旅行者が感じたことなどを伺うことができ、地域のインバウンドに対する解像度を深めることができます。
せっかくのオープンソースですので、ぜひ活用してみましょう。