観光に関する英語PR文作成ポイント Part 2<発展編>
ローカライゼーションインバウンドマーケティング部のブリタニーです。前回のPart1<基礎編>から2回にわたって、観光に関する英語PR文作成ポイントをお伝えしています。
さて、こちらのPart2<発展編>では、英語PR文でよく目にする文言のうち使い古されていたり、意味をなさなかったり、ちょっと厄介なものだったりと、ネイティブ視点で非常に気になるものについて、「ブリタニー’s ツッコミ」を入れつつ解説していきたいと思います。
Part1<基礎編>では、英語PR文を書く際の基本をお伝えしましたが、その中に「伝えたい」内容より「お客様が知りたがる」内容を優先すべきというポイントがありました。
しかし、英語に訳されたPR文を見ていると、その「お客様視点」がないがしろにされているものが多く見受けられます。更には、他社・他地域が書いているのを参考にしよう、という発想からくるのか、あまり意味をなさない似通った文言が、幅広く使われているケースも目にします。
既存の(違和感のある)英語PR文から離れて、自分たち独自の特徴や魅力をきちんと伝えられるPR文の作成を目指していきましょう。
では、ネイティブから見ると「違和感のある」英語PR文とはどのようなものか、それらを避けて外国人旅行者にしっかり伝わる英語PR文を作成するにはどうしたらよいのか、これからお伝えしていきます。
■曖昧な形容詞、誇張表現
“gorgeous”(ゴージャス)や、”beautiful”(美しい)などの抽象的な形容詞を多用するよりも、明確な特徴や具体的な例を、読者にとって想像しやすいイメージをもって伝えましょうというお話は、Part1<基礎編>でお伝えしました。
これらの表現は、抽象的であることもさることながら、「主観的過ぎる」という事も問題です。おいしい、美しい、それらを感じるのはお客様ですよね?もっというと、こちらがそれを主張しなくとも伝わるものであるべきです。だからこそ、魅力を伝えられる画像などの活用も重要です。
”once-in-a-lifetime”(一生に一度)といった誇張表現にも注意が必要です。
地理的に遠いことから英語圏の多くの人にとって日本への旅行は、本当に”once-in-a-lifetime”という可能性もあります。一方で、皆さんの地域が提供するユニークな体験プログラムがある場合に、そのターゲットとなるのは初めて日本を訪れる人というよりも、既に複数回日本を訪れているリピーター層かもしれません。
同様に、限られた予算で旅行をしている層にとって高級ホテルは”once-in-a-lifetime”かもしれませんが、高所得の旅行者にとっては日常的にそのようなホテルを利用している可能性もあります。みなさんのターゲット層へのメッセージとして、”once-in-a-lifetime”という表現が、本当に適切かどうかは要検討です。
同じように、 “unforgettable” (忘れられない)や “unique”(ユニーク)といった言葉にも注意が必要です。何となく響きがよくて、自分たちの魅力を伝えているかのように感じるこれらの文言は使い勝手がいいかと思います。しかし、繰り返しになりますが、基本的には抽象的な形容詞より、明確な特徴・具体例を伝えることをまずは念頭におきましょう。これらの抽象的な文言は多用すべきでなく、内容が合致しインパクトを与えるべき場面でのみ使うようにしましょう。
■日本語直訳だと、誤った意味合いや違和感のある英語
「あなただけの…」
「大切な人と…」
「○○な滞在」
「オーダーメイド」
日本語のPR文でこのような文言を目にしたことはありませんか?英文PR文の中で、これらをそのまま英語に直訳して使っているのを度々見かけます。これらは「文法的」に誤りがある訳ではありません。
ですが、ネイティブ視点でいうと、これらの英訳はどのような印象を与えるでしょうか?
- 「あなただけの」→ “Just for you”
複数の英語ネイティブに意見を聞いたところ、バレンタインのイメージが浮かぶという声がありました(笑)。あなただけという意味合いを持たせたい場合は、”private”、”exclusive”、”personalized” などを使うことをおすすめします。
- 「大切な人」→ “your precious person”
この英語表現は、ネイティブ視点では不自然です。「大切な人」の直訳であることは理解できますが、ネイティブはこのような表現を使いません。主に家族のことを示して「大切な人」という場合には”your loved ones” を使うことがあります。
ただし、これも使い方は要注意です。ホテルの英訳PR文で、”Enjoy your stay with your precious person” という実例がありました。私の率直な感想としては、「え、そりゃ誰だって”loved ones”じゃない人とは泊まらないでしょ?」 というものでした。このような「それって当たり前でしょ?」というツッコミ所が多い英訳PR文を、残念ながらよく目にするのです。
- 「○○な滞在」→ “A stay that is ○○”
こちらも文法的には間違っていませんが、やはり自然な英語ではありません。
通常、”Enjoy your stay”、”Have a nice stay” (素敵な滞在を)という言い方以外で、”stay”を名詞として使いません。英語と日本語では文章構造や、単語の使われ方が異なります。直訳の場合は、このように日本語の名詞に引っ張られた英訳をしてしまうことがありえます。このケースでは、下記の例のように、”stay”を別の名詞で置き換えたり、動詞として使ったりして、自然な英語にすることができます。
× A stay as luxurious as a villa
〇 A hotel as luxurious as a villa (“stay”を”hotel”へ変更)
〇 Stay in luxury like at a villa(”stay”を動詞に変更)
- 「オーダーメイド」→ “Order-made”
「これは、注文してから料理をし始めるってこと?」と、勘違いした英語ネイティブの知り合いが多くいるように、この直訳英語では、誤った意味で理解される可能性があります。また、“Order-made”は、スーツに関して使われることが多くあります。
別の英語表現としては、”bespoke”があります。こちらは様々な業界やビジネス、旅行関係のPR文でも良く出てくるのですが、所謂バズワードで、あまりに使われ過ぎていてうんざりという印象があります。
オーダーメイド、つまりその人に合わせたツアーや体験を英訳したいのであれば、シンプルでわかりやすい”personalized” などを使うことをおすすめします。
さて、いくつかフレーズ事例を挙げましたが、前後の内容によって最適な英語の言い回しは異なります。そのため、この場合はこう英訳すれば間違いなし!という例をここで示すのは大変難しいです。みなさんの英語PR文について周りのネイティブの方に依頼する場合は、文法チェックだけではなく自然で適切な英訳になっているのか、是非アドバイスをもらって欲しいと思います。
■疑問を招く表現
“awarded a Michelin Star in our first year of operation” (創業1年目にミシュラン一つ星を獲得した)
“our chef is Michelin-starred”(私たちのシェフはミシュラン星を獲得)
英語PR文に、このような記載があったら、ネイティブはどう感じると思いますか?
”awarded”と過去形で表記があると、「昔は獲得したけど、今はないのかな?」という疑問や、シェフについての記載は、「ミシュラン星を獲得したシェフがいるみたいだけど、このレストランが星付きではないということ?」という疑問を抱いてしまいます。
疑問が生じると、次には、実際よりも良く見せようとしているのかな、実態を隠そうとしているのかな、という不信感に繋がりかねません。
過去に受賞した賞の記載は、「過去には良かったけれど、それを維持できていない」という事を感じさせる場合もあります。PR文では、あくまでも最新の情報で、外国人旅行者が調べたときにすぐに確認できるものを活用することが望ましいです。近年の受賞歴がない場合には、その受賞についてはあえて触れず、別の観点から魅力を伝えることのほうが有効です。
■全て大文字の英単語表記
これは英訳の問題というよりも、英語の表記について、日本語話者と英語話者では異なる感覚を持っているという話になります。日本のクライアント様は、彼らのブランド名に関して全て大文字で表記することにこだわる場合があります。英語圏の企業も、彼らのロゴが大文字表記なのをよく見かけます。ですが、文章中では、そのような大文字表記の社名・ブランド名も、通常は単語の始め1文字だけ大文字を使用し、それ以外は小文字が使われているケースが殆どです。なぜなら、全て大文字表記の記載ですと、 “LOOKS LIKE SHOUTING”(大声で叫んでいるように感じるからです) 。
英語ネイティブにとって、大文字表記の羅列は読みづらく、あまり好ましいものではありません。良質なPR文というのは、読者が必要な情報を素早く読み取れるもの、という観点からも、単語を全て大文字表記にすることはおすすめしません。
× Please enjoy some free candies from SAKURA SWEETS, a local company.
〇 Please enjoy some free candies from Sakura Sweets, a local company.
■聞こえはいいけど、魅力は伝わらないフレーズ
- 「新鮮な材料」「特選材料」→ “fresh ingredients” “specially selected”
英語PR文の中で ”fresh ingredients”と見たときは、「え、新鮮じゃないと心配なんだけど」と思わずツッコんでしまいました。つまり、それは当たり前の事で、書いたとしてもそれ程魅力は伝わらないのでは、と思ったのです。
また、”specially selected”と言われても、それが何を意味するのかさっぱりわかりません。
どれほど新鮮なのか、どのように選んでいるのか、「特選」というのは何を意味しているのか、具体的な例を述べないと、魅力は伝わらないのです。
× Our chef selects only the freshest ingredients. (シェフは新鮮な材料だけを使っています)
〇 Our chef personally visits the local farmer’s market every morning to choose the freshest ingredients to use that day. (シェフは毎朝地元の市場にいって、その日に使う新鮮な材料を選びます)
× Specially Selected Wagyu Menu(特選和牛)
〇 Specially Selected Wagyu: The highest quality Wagyu in terms of texture and flavor (特選和牛:舌触りと風味が最高の和牛)
- 「五感で感じる」
こちらは高級ホテルPR文の例です。初めて「五感で感じる」という文言を目にした時、とても魅力的に感じました。ホテルの中はどんな香りで溢れているのだろう、どんなBGMがかかっているのだろうと興味を惹かれたのです。
ですが、“Comfort you can feel with five senses” と、英訳された表現はその魅力が半減してしまいました。なぜならこれでは、そのホテルの特徴が伝わりきらないからです。
英語ネイティブの友人にこのフレーズを読んできかせたところ、味が付いている壁をイメージしたという反応もありました(苦笑)。
更に問題なのは、少なくない数の高級ホテルで、同様の表現が用いられていることです。同じ表現を目にするたびにうんざりしてきて、「そりゃぁ、どの高級ホテルも五感全てを考慮して質を高めてるでしょ」とツッコミたくなりました。だって、「我がホテルは香りがイマイチなので鼻をつまんでお入りください」、なんて無いですよね。
「五感」という言葉にとらわれず、香り、手触り、眺め、音、味など、来訪者がそのホテルで感じられる魅力について、具体的に伝えることをおすすめします。
また、 “Japan has four seasons”(日本には四季がある)も多くのPR文で目にしますが、同様に英語ネイティブにとってその魅力が伝わりきれない表現です。これについては、こちらに詳しく書かれていますので、是非読んでみてください。
- 「おもてなしを大切に」
これも一見、素敵な雰囲気が伝わるように感じますよね?ですが、これも同様で、わざわざ “We value hospitality”と書いても具体的な内容は分かりませんし、くどい印象もあります。おもてなしの心をどのような形で表してお客様に提供しているのか、具体的に伝えましょう。
さて、「おもてなし」と言えば…
■日本語そのままでは要注意な表現
日本語をそのまま使うのは待った!という表現の一つに、”Omotenashi”があります。IOCの夏季東京五輪誘致スピーチの「お・も・て・な・し」を覚えていますか?これで認知が高まったと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は海外では殆ど知られていません。
日本のホスピタリティ、”Japanese hospitality” は良いイメージとともに割と認知されているかと思います。ですがそれを、わざわざなじみのない言葉で定義させようとすると、「”Omotenashi”というよく分からない日本独特のホスピタリティ」と、違和感や、更にはマイナスイメージを抱かせかねません。「”Omotenashi”?日本の礼儀は難しくて自分が失礼なことをしてしまいそうでこわいなぁ」と言っていた英語圏旅行者に会ったことがあります。
さて、ここまで事例を交えつつ英語PR文での注意点などを述べてきました。
色々お伝えしましたが、重要なのは、シンプルに、外国人旅行者の視点に立つことです。つまり、おしゃれでファンシーな言葉を並べるよりも、彼らとのコミュニケーションを深めることに重きをおくことです。
おしゃれな言葉を使ってはいけないという意味ではありません。もちろんOKです!ただし、注意が必要なのは、他でよく見かける言い回しだからとか、何となく響きが良さそうだからという理由で使うのではなく、みなさんが伝えたい魅力が本当に伝わる表現かどうかを良く考え、適切に使用するということです。
多言語でPR文を作成する場合には、文法的チェックに加え、自然な表現かどうか、ネイティブに確認してもらうことをおすすめします。ターゲットとする外国人旅行者に、あなたの観光資源・コンテンツの魅力を伝えるにはどのような文章・文言が適切なのか、どの言語であれ、翻訳者たちは喜んで提案してくれるはずです。
もちろん、エクスポート・ジャパンのネイティブスタッフもその一人。英語は勿論、魅力を伝える多言語でのPR文作成をご検討される場合には、お気軽にご相談くださいね!