観光に関する英語PR文作成ポイント Part 1<基礎編>
ローカライゼーションインバウンドマーケティング部のブリタニーです。
私は英語ネイティブエディターという立場で、観光に関する様々な文章作成、外国人観光客を対象としたPR文の翻訳・制作を行っています。エクスポート・ジャパンに入社する前にも、コンシェルジュやツアーやワークショップの通訳、観光プロモーション資料制作など、インバウンド観光に関わる仕事に8年程携わっていました。
そのような経験の中で、数多くのインバウンド観光の英語PR文を見てきました。残念ながら、それらの中には伝えるべき項目が具体的でなかったり、”日本語的な”翻訳がされていたりと、英語ネイティブ読者にはうまく伝わらない内容のものも多く見られました。
そこで今回のブログでは、2回に分けてインバウンド観光のための英語PR文の基本的なポイント、ターゲットである外国人旅行者に伝わる言い方、避けるべき言い回しなどをご紹介致します。
こちらのPart1では<基本編>として、まずは英語ネイティブ向けの英語PR文の基本、作成にあたって意識すべきことをお伝えしていきます!
■英語PR文の基本
効果的な英語PR文に必要なのは、ターゲットが知りたい事を、簡潔に、分かりやすく伝えることです。
当然の事に感じるかと思いますが、実際に目にする英語PR文では、不自然な英語表現や、当たり前すぎる記載(思わず「それで?」と言いたくなるような)が多く使われています。これでは他の数ある観光資源・コンテンツの中で、自分たちのものがいかに魅力的かは伝わりません。
また、英語PR文の中には、詩的できれいな表現も目にします。そのような詩的な表現は、日本語の感覚では効果的なのかもしれません。しかし、英語の場合は、内容が曖昧で、ターゲットである外国人旅行者にとってはまったく中身の無い情報になってしまいがちです。
みなさんの観光資源・コンテンツの何が、外国人旅行者にとって魅力的なのか。それを知る上で、外国人旅行者はどのような情報を求めているのか。
英語PR文の作成には、そのような外国人旅行者の視点を理解することも求められます。
英語PR文作成で押さえておくべき項目は、次の3つとなります。
① 最初の掴み
みなさんの観光資源・コンテンツで何が一番の魅力でしょうか?
この「最初の掴み」は、より詳細な情報を読んでもらうために、「お、面白そう」と思わせるものが必要です。「どこで」「何を」を明確にし、キーワードを入れ簡潔に表すことがポイントとなります。
② 5W1Hに答える
(Who – 誰が、What – 何を、Where – どこで、When – いつ、Why – なぜ、How – どのように)
ここでお伝えしたいのは、基本情報をしっかりと伝えるということです。あくまで一例ですが、5W1Hで求められる情報を挙げてみると、以下の通りです。
- Who:あなたのコンテンツを最も楽しめるのはどんな人なのか(夫婦、小さな子連れの家族、アドベンチャーツーリスト…)?
- What:あなたのコンテンツは何か?何が含まれているのか?何が特別なのか?
- Where:場所はどこなのか?どうやってアクセスできるのか?何が近くにあるのか?
- When:最も適した時期・季節はいつなのか?いつまでに予約が必要なのか?どのくらい時間がかかる内容なのか?
- Why:なぜ数あるコンテンツの中からあなたのコンテンツを選ぶべきなのか?そこに行く・そこで体験する価値はどこにあるのか?
- How:どのようにして予約をするのか?料金はいくらか?
③ 具体的行動への誘導
キャッチ―なタイトルに魅かれて、詳細情報を読んで、行ってみたい!と思わせられたのなら、次のアクションを促す導線が敷かれていることも大切です。
例えば、HP上であれば、「予約をする」 や 「無料見積もり依頼」のように、次のアクションが明確なボタンを設置することで、単なるプロモーションに終わらせずに具体的な行動を促すことが可能になります。
記載する情報をどのように整理するかは、紹介したい内容や、その掲載媒体がHPなのか紙媒体なのか次第で大きく異なってきます。ただ、共通点として強調してお伝えしておきたいのは、「簡潔に!」ということです。これは大原則です。
■訴求ポイントの伝え方
では魅力、訴求ポイントはどのようにすればターゲットに伝わるのでしょうか?このPart1<基礎編>の記事では、作成にあたってまず意識すべき事を3点お伝えします。(Part2<発展編>では、具体的事例を交えて(ブリタニーのツッコミ含め)ご紹介していく予定です!)
① 読み手は外国人旅行者であることを意識する
最も基本的な事になりますが、英語PR文の読み手は外国人旅行者です。
そのことを、本当の意味で意識する必要があります。彼らが訪日旅行で求めるものは何か、旅行計画時にどのように検索するのか、といった視点も必要です。
一例ですが、着物を着たいと考える外国人が”kimono experience”というワードで検索することは殆どありません。それよりも、“wear kimono”、 “where can I try on kimono in Kyoto” or “Tokyo kimono rental”という検索の仕方をします。ターゲットである外国人旅行者が普段使っているような自然な英語表現で記載することが大切です。
他にも、日本国内向けの表現や、インバウンド旅行業界で使われる用語などがそのまま訳されていて、不自然な英語になっているケースもあります。
例えばこのようなイベントタイトルを見てどう感じますか?
「人間国宝から学ぶ焼き物の世界。富裕層向けプライベートツアー」
お客様向けの案内文で「富裕層向け」なんてあからさまに書かないよ、と思われた方もいるかもしれませんが、驚くことに近年このような表現がそのまま英訳されている文章を目にすることが度々あります。
インバウンド業界関係者間での指針や目標の中にこのような文言があるのは問題ありませんが、実際の旅行者向けの文章としては好まれません。これは日本人にとっても同様ではないかと思いますが、英語ネイティブ視点では次のように感じます。
・そもそも年収で自分たちのことを定義し、富裕層であると認識している人は多くありません。あからさまな表現は、そのツアー主催者が「お金にしか興味ありません」と暗に伝えているような印象を与えます。
・日本での特別な体験に興味はあるけれど、年収は高くないという人たちを排除してしまいます。タイトルで富裕層限定のように冷たく言い放つ代わりに、金額を明記して、その体験にその金額を払う価値があるのかを各々に判断してもらうことを推奨します。
・前述の検索ワードの例同様、「富裕層向け」というワードで体験やツアーを探す人は殆どいないでしょう。ハイエンド商品ということであれば、 “exclusive” や “luxury”という表現を使い、(ここが重要ですが)その金額に見合う価値が何であるかを、具体的に情報提供する必要があります。
【富裕層向けコンテンツのタイトルに使う表現の例】
× An experience for wealthy tourists
〇 A luxury experience
② 具体的な言葉で、イメージがわく表現を
英語PR文では具体的で、適切な説明が求められます。”gorgeous”(ゴージャス)、”beautiful”(美しい)などの抽象的な形容詞を多く使うよりも、明確な特徴や具体的な情報を伝え、外国人旅行者が描きやすいイメージを伝えるのが大切です。
× 「Eat delicious seafood while looking at the beautiful sea.」
(日本語訳)綺麗な海を見ながら美味しいシーフードを食べよう
このままだと“delicious”(美味しい) や “beautiful”(美しい)という主観的で抽象的な表現のせいで、旅行者は具体的なイメージを抱けません。
そこでまずは、少々長くなってもいいので、コンテンツの個性・価値を踏まえた文章にしてみます。
↓
○ 「Enjoy the view of the bright blue sea framed by the rocky Sea of Japan coast as you eat fresh seafood like briny turban shell snails and plump, juicy Iwagaki oysters.」
(日本語訳)日本海の岩礁に縁取られた真っ青な海を眺めながら、サザエや岩ガキなど新鮮な海の幸を堪能しよう
より具体的で鮮明なイメージをもたせる言葉を使用した例です。でもこれでは長すぎます。この中で、最も印象に残したい特徴に焦点をあてて、短い文章にします。
↓
○ 「Enjoy some plump Iwagaki oysters while appreciating how the rocky Sea of Japan coast frames the view of the sea.」
(日本語訳)岩の多い日本海が形成する海景を楽しみながら、ぷりぷりの岩ガキを堪能しよう
“rocky Sea of Japan coast” (岩の多い日本海)、“plump Iwagaki oysters”’(岩ガキのぷりぷりした食感)など、どこにでもありそうな「美しい海」や「おいしい海の幸」ではなく、その地域だからこそ楽しめる特徴が伝わるのではないでしょうか?
他にも要注意な例として、近年 “premium” (プレミアム)な体験やツアーという表現もよく見かけます。でもこの言葉だけでは、通常よりも何が良いのか全く分かりません。「通常未公開スペースを利用する」、「専門家と話ができる」などの明確・具体的な言葉で、その特別さを自然に伝えましょう。
③ 軽い気持ちで使うのは要注意な言葉
他に重要なのは、外国人旅行者に、みなさんの発信する情報が「信頼できる情報」だと認識してもらえることです。
そのためには、トレンドとなっている表現であっても、安易に使用することには注意が必要です。
例えば、”sustainable”(サステイナブル) は頻繁に耳にする言葉ではありますが、本当にその分野において関心が高い人からは、その言葉に実態が伴っているのかという厳しい視線を注がれる可能性があります。きちんとした裏付けや根拠を説明できない場合は、安易に使わない方がいいでしょう。
もちろん、真剣に “sustainability”(サステナビリティ) に取り組んでいるのであれば、具体的な内容と共にその点をアピールすることは有効です!
他にも、「美肌効果」などの約束は基本的にNGです。
観光庁で進めている多言語整備支援事業においても、温泉や食品、エステなどの効能については、科学的に検証されていなければ基本的に記載しません。多くの海外メディアでも、この点に関してルールを定めています。どんなに有名な温泉であっても、それを医療として勧めたり、約束しているかのような表現は避ける必要があります。
「美肌効果」に関してもう一つ付け加えると、その根拠を提示しないと、誇大広告に見えてしまいます。例えば、メタケイ酸100mg以上など具体的に提示できる泉質であれば、きちんと解説を加え説明するべきでしょう。
では一般的な泉質の温泉は何を訴求したらいいのでしょうか?
しっかりと「約束できること」に焦点をあてたらいいのです。例えば、温泉施設自体の特徴や、あなたの温泉施設にまつわるストーリーや歴史、施設でどのような時間を過ごすことができるのか。英語PR文を作成するというのは、他と差別化できる独自の強みポイントを見つけて磨いていくこととも同義だと思います。
本記事では、英語PR文作成においての基本的なポイントについてお伝えしました。
外国人旅行者に向けて、みなさんの地域やコンテンツの魅力がより伝わる英語PR文作成のヒントになると嬉しいです。
さて、次回のPart2<発展編>ではいくつかの事例とともに、一般的なフレーズではあるけれど英語PR文としては違和感があったり、使い古されたように感じたりする表現を、ブリタニーのツッコミと共に解説していきます!