医薬品情報の新しいあり方 〜EUが推進するePI〜
アクセシブルコードAccessible Code®(アクセシブルコード) は現在、国内複数の製薬会社様にご採用いただいており、医薬品をはじめとした、印刷された商品情報へのアクセシビリティ向上という目標を掲げ、日々活動しております。
この医薬品情報へのアクセシビリティ向上は、日本だけでなく世界でも大きな課題として取り上げられていて、直近では 欧州連合(EU)が推進する電子製品情報(ePI)の取り組み や、 インドでの医薬品における視覚障害者向けの点字印刷問題 が話題を呼んでいます。
このブログではその中でも欧州連合(EU)が推進する電子製品情報(ePI)の取り組みについて、その成り立ちや最新動向、今後の予測をまとめ、医薬品情報の新しいあり方について紹介しています。
製品情報のアクセシビリティに注目した欧州連合
2017年3月の欧州委員会(EC)では、欧州内の様々な製品情報にはまだまだアクセシビリティ上の課題が多くあると表明されました。
ここでいう「製品情報におけるアクセシビリティ上の課題」とは、ある1つの製品に関係する(作る・売る・使う etc)人々がそれぞれの立場から、必要な情報を必要なときに取得できるかどうかを指します。
この表明をもとに、欧州では各業界がこの課題を解決するべく動き出しました。その中でも一足先に中長期の行動計画やガイドラインを発表したのが製薬業界で、欧州医薬品庁(EMA)、各国医薬品規制当局責任者会議(HMA)、欧州委員会(EC)が主導し、欧州医薬品戦略の一環として誕生したのがePI(電子製品情報)です。
ePI(電子製品情報)とは?
ePIはElectronic Product Informationの略で、欧州医薬品庁(EMA)が管理する電子フォーマット化された医薬品情報のことを指します。
ePIには、医療従事者向けの製品概要(SmPC)、製品の外包と内包にある表示情報(Labelling)、患者向け情報リーフレット(PL)が含まれ、全EU加盟国で統一されたフォーマットとその他の医薬品情報提供サービスとの連携を目指しています。
これまで欧州内の医薬品情報には以下のような課題がありました。
・紙、PDF、その他のファイル形式など、情報のフォーマットが定まっておらず、関係者が必要なときに必要な情報にアクセスできない。
・多言語対応ができておらず、連合内であるにも関わらず別の国で開発された医薬品を使うことに障壁がある。
・医薬品の開発過程や実績が開示されておらず、医療従事者同士のベストプラクティスの共有ができない。
引用元:EMA action plan related to the European Commission’s recommendations on product information
これらの課題に基づいて、ePIの基本原則が採択されました。
ePI(電子製品情報)の基本原則
以下、欧州医薬品庁(EMA)が2020年に発表したePIの基本原則を紹介します。
【公衆衛生への利益】
ePIは、公衆衛生上の優先事項である。患者、消費者および医療従事者が必要な情報を正確に受け取り、治療に関する意思決定が支援されることを目的とする。
【アクセシビリティ】
ePIは、障がい等個人の能力に関わらない情報アクセシビリティを実現する。視覚障害者向けの大きなフォントや高コントラスト表示、音声フォーマット、スクリーンリーダー対応などがこれにあたる。
【最新性の向上】
ePIは、医薬品情報の更新および配布を効率化する。これにより、製品情報のタイムリーな更新が可能になり、患者、消費者および医療従事者が最新の情報を迅速に入手できる。
【データの標準化】
ePIは、データ標準化の促進に寄与する。共通のデータ標準を使用することで、情報の一貫性が保たれ、異なるシステム間での情報交換が容易になります。これにより、医療従事者は異なるソースからの情報を簡単に比較・対比できるようになる。
【透明性の向上】
ePIは、透明性の向上に寄与する。規制当局が承認した情報が一元的に提供されることで、患者、消費者および医療従事者は信頼性の高い情報にアクセスできるようになる。
【国をまたいだ医薬品情報の統一】
ePIは、国をまたいだ医薬品情報の統一に寄与する。EU各国で共通の電子化標準を使用することで、異なる国や地域での情報の整合性が保たれ、国際的な医薬品情報の統一が実現する。
引用元:Electronic product information for human medicines in the EU: key principles
これらの基本原則をもとに、ePIのフォーマットが協議され、2023年7月から1年間にわたって、これを実際に運用するパイロットプロジェクトが実施されました。
最新動向
パイロットプロジェクトは2024年7月に終了し、25の医薬品を対象としてデンマーク、オランダ、スペイン、スウェーデンの4ヶ国が参加しました。
各国の製薬会社は対象の25の医薬品のうち、自社が開発した医薬品に対してePIを作成・更新し、各国医薬品規制当局責任者会議(HMA)に内容についての承認と公開を求めます。各国医薬品規制当局責任者会議(HMA)がこの内容を承認し公開すると、インターネットに接続できる全ての人が該当する医薬品のePIを閲覧することができます。
パイロットプロジェクトの終了から2ヶ月、ePIの実践によってどのような恩恵がもたらされたのか、逆にどのような課題が残ったかを含め、今後のePI発展につなげるための分析が行われているものと予想します。
こうした状況も踏まえ、今後の可能性についての見解を紹介します。
今後の起こり得るePIに関連する動き
1. 対象医薬品と参加国の増加(短期的予測)
パイロットプロジェクトの結果をもとに、フォーマットの改善や基本原則の見直しが行われ、試験対象医薬品とその参加国の数が増えると予測します。医薬品というセンシティブな情報を取り扱うため、各国が一斉に取り組み始めるのではなく、検証範囲を徐々に拡大するものと考えます。
2. ePI関連の新しいサービスが誕生(中期的予測)
ハードウェアやソフトウェアなどの開発会社は、ePIに連携したプロダクトやサービスを新たに開発すると予想します。ePIの情報はあくまで標準化されたもので、患者や消費者、医療従事者用に「必要な情報をもっと見やすく、かつアクセシブルに」変換するためのハードウェアやソフトウェアは将来的には必要となるでしょう。
3. 流通や販売に対する制限(長期的予測)
ePIが浸透した社会では、医薬品の流通は販売に対する制限が施行される可能性があります。製薬会社は、ePIを作成し規制当局から承認を受けることはもちろん、患者や消費者、医療従事者向けにどのような形でePIを提供しているかその情報提供のアクセシビリティについても評価され、基準を下回る製品の流通制限や販売制限にかかる可能性があると予想します。
最後に
今回、EUが推進するePIを事例に、医薬品情報の新しいあり方について紹介させていただきました。もちろんこの動きは医薬品だけに関わらず、あらゆる製品情報に当てはまります。誰もが平等に必要な情報を手にすることができる社会の実現に向けて、今後もますますデジタルの力が求められるでしょう。
Accessible Code®は、視覚障害者、ディスレクシアの方、外国語話者向けに、音声や多言語で、「製品の使い方や成分、安全上の注意」などの重要な情報を伝えるために作られた2次元コードです。商品のパッケージに印刷していただくことで、点字や個別の説明書を添付することなく、各メーカーから世界中の消費者に対して、ユニバーサルな情報提供を可能にします。
ePIの基本原則には、多言語対応、障害の有無に関わらない情報提供、更新のしやすさが掲げられており、Accessible Code® はePIの拡張機能(多言語対応・音声対応・触覚認知機能)として有効であると考えます。
将来的にはePIとの連携も視野に入れており、今後も医薬品をはじめとした印刷された商品情報へのアクセシビリティ向上という目標のもと活動して参ります。