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タリフを通じて見る観光コンテンツ造成・誘客のポイント

ローカライゼーション
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E. Kobayashi

昨年の年間訪日外客数は3600万人を超え過去最高を更新し、2025年1月・2月も共に単月300万人を超え2024年を上回る形で推移しています。更なる訪日外国人増加が期待される中、日本各地で様々な新しい観光コンテンツがつくられています。

ではそのうちどれくらいが実際の販売・誘客へと繋げられているでしょうか?

「あと一歩というところまでお客さんが来ているのに、事業者さんが知らないうちにお客さんを逃していることがあります。」

そう話されるのは、国内ランドオペレーターという立場で、主に中東諸国のお客様を日々ご案内されている(株)ジェイ・リンクス 代表取締役の金馬あゆみさん。

「魅力を感じる観光コンテンツがありお客様を新規でご案内したいと考えたとしても、結局『いつものところ』をご案内するに留まってしまうケースが多々あります。」

魅力を感じているのに、お客様に勧めることができない・・・

その背景にある事情とは?どうすればお客様に勧めて頂き送客してもらえるのか?
販売・誘客に繋げていくための重要ポイントについて、金馬さんと一緒に解説していきます。

(※本記事では、宿泊、飲食、体験など旅行者に提供する様々なサービスを「観光コンテンツ」として記載しています)

予約・手配の流れ

まず、外国人旅行者たちがどのようにして地域の宿泊施設や飲食店、体験コンテンツ等を予約・手配しているのか、その流れをみてみましょう。

外国人旅行者は右側に、地域事業者さんが左側にいるとすると、その間には様々なプレイヤーが介在しています。もちろん、SNSやウェブサイト等を活用して直接地域事業者さんと旅行者が直接繋がる場合もあれば、旅行者は自国旅行代理店に手配を依頼したりOTAを活用する場合もあります。

そういった海外旅行代理店より依頼を受けて、日本国内の宿泊・移動手段・食・体験・ガイドといった諸々の手配をするのが金馬さんのようなランドオペレーターや国内旅行会社となります。

つまり、OTAへの掲載・販売以外にも、ランドオペレーターや国内旅行会社に、皆さんの観光コンテンツを認知し価値を正しく理解してもらうことで、旅行者の旅程に組み入れ海外旅行会社/旅行者へ提案するという流れができるのです。

一般旅行者向けの情報では不十分

では、ランドオペレーターや国内旅行者に、「観光コンテンツを認知し価値を正しく理解してもらう」のに必要な情報とはなんでしょうか?

「ずばり、”しっかりと整備されたタリフ”です。商談会などでもよくあるのですが、いかに地域が素晴らしいか、優れたコンテンツがあるのかを一般旅行者向けのパンフレットを持って来られて熱くお話頂く場合があります。でもそこには、私たちのような手配をするランドオペレーターや旅行会社が検討時に必要とする情報が記載されていないことが多いのです。」

そもそもタリフとは何でしょうか?そこにはどのような情報が記載されるべきなのでしょうか?

「タリフとは英語で料金表を意味しますが、料金だけでなく観光コンテンツの概要・価格・取引条件などをまとめたものです。商品で例えると分かりやすいかと思いますが、メーカーが自社商品を扱っていただきたい小売店へ営業する時に、一般消費者向けの価格・取引条件を伝えても商談はうまくいきませんよね。それと同じで、一般旅行者向けの価格・取引条件のみが記載されたパンフレットを携えて営業に来られても、正直なところ、そんな状態で来ないでよ…と印象は良くないですし、必要な情報が揃っていないので検討も困難になります。」

<タリフ例> ©株式会社ジェイ・リンクス

「タリフは特にこれと決まったフォーマットがあるわけではありません。ただ、観光コンテンツの概要の他、所要時間、実施場所、アクセス、最少・最大催行人数など、そして料金やキャンセルポリシーは基本情報ですね。それに加えて、例えば飲食店さんですと、座席数やテーブルor座敷、禁煙・喫煙・分煙、特別対応可否(貸切やサプライズ対応等)などの追加情報もあると有難いです。あと、料金の部分で割と多くて困るのが、「未就学児」「小学生」「中学生」といった書き方です。海外の教育制度は国によって異なるため、年齢で記載頂く方が分かりやすいです。」

「タリフには通常販売手数料も記載頂くのですが、その欄が『無し』だったり、空白であることもあります。ここは我々ランドオペレーターや旅行会社の収益源となりますので、そこが無いと正直アレ??となりますね。ただし、事業者さんが設定している料金に、ランドオペレーターや旅行会社側で上乗せして販売していいですよ、という取り決め(マークアップ)の場合もありますので、その際には分かるように記載頂くとスムーズです。」

送客を断念する大きな要因は「面倒くささ」と「不安」

日々海外旅行会社から多くの問い合わせがある中で、旅行者のニーズに合うものをタイムリーに手配するにはスピード感も必要ですよね。そうすると、分かりやすく必要な情報が纏められたタリフなしには、検討の遡上にもあがらない、、、ということになりそうですね。

「私たちが送客を断念してしまう大きな要因には「面倒くささ」「不安」があります。
例えばタリフがそもそもなかったり、抜けている項目があったりすると、一つ一つの確認に手間がかかります。私たち手配側が必要な項目を受入側が準備・検討できていない可能性もあり、それを説明し確認するといった時間の余裕はありません。また、ある程度お客様をいつもご案内する”既存のコース”というものがあったりします。新規の観光コンテンツを旅程に組み込む場合には、単純に追加したり入れ替えたりすればいいというものではなく、その前後の行程の調整も必要となります。土地勘のないエリアであれば尚更で、十分な情報が容易に得られない場合には、「面倒だな…いつもの所にしよう…」となりがちです。」

「そしてもう一つは不安です。土地勘のない場所でアクセスや周りの環境などよく分からない場合や、初めて聞く観光コンテンツでイメージが湧きにくい場合には、本当に送客していいのかという不安があります。あとは受入側が観光客に慣れているのか分からない不安もあります。私たちが一番怖いのはお客様からのクレームが発生することです。特に我々ランドオペレーターは他の旅行会社などからの依頼を受け国内の手配をするので、1件クレームが発生すると、その取引先からの将来的な依頼までも失うかもしれないという大きなリスクを常に抱えています。新規の観光コンテンツを組み込むというのは、担当者にとって大きな精神的プレッシャーも伴うのです。となると、ここに送客して大丈夫かな、、不安だな、、、やっぱりいつもの所にしておこう、、となるケースも多々あります。」

確かにクレームや信用を失うリスクを負って、且つ手間ひまをかけてまで、新規観光コンテンツを組み込みたいとは思いませんよね。ではこういった面倒くささや不安を解消し、選んでもらえる観光コンテンツにしていくにはどういった準備が必要でしょうか?

「タリフがない場合には、とにかくまずは項目に従って分かるところから記入する形で作ってみてください。タリフ無しでランドオペレーター・旅行会社へ営業にいくのは、履歴書無しで就活するようなものです。商談会でも一般用パンフレットを持ってこられるのとタリフをご準備頂いているのとでは全く印象が違います。最初から完璧な内容のものを目指さなくて構いません。ランドオペレーターや旅行会社もそのタリフを見て質問やリクエストができるので、それらの質問・リクエストを受けてタリフも、そして実際の観光コンテンツもブラッシュアップしていけばよいのです。」

「本当に送客して大丈夫か?という不安解消のためには、タリフと共に実績やお客様の声、写真や動画などがあると非常に役立ちます。勿論実際に受け入れる態勢が整っている前提ですが、まだ実績がなくともモニターツアーでの様子やその際のコメントでも構いません。あるのとないのとでは大きく違います。また、よくある質問についてはQ&Aとして纏めて予め準備しておくと有効です。手配側からすると、私たちが確認したい項目をご理解いただいた上できちんと準備されているんだなという安心感に繋がります。」

もう飽き飽きしているNGワードはこれ!

タリフ基本項目がある程度整っている場合、多くの観光コンテンツの中から選ぶ際のポイントなどありますか?

「逆に、これは選びませんよという例を紹介しますね。例えば観光コンテンツに関する次のような概要説明では全く魅力を感じません。」

「色々言っているのですが、中身が全く見えないんです。何も伝わりません。赤字で書いている『本物』『特別』『ここならでは』といったものは、基本的にNGワードと考え、それ以外の言葉できちんと表現するよう心がけていただきたいです。使い勝手がよく、誰でも言えてしまうので、残念ながら非常に多く目にします。どうして本物といえるのか、何がここならではなのか、具体的な言葉で説明しないと伝わりません。」

「私たちは海外旅行会社/旅行者へ「なぜこの観光コンテンツなのか」をきちんと説明して紹介や説得をする必要があります。私たちに伝わらなければ、当然その先へのアプローチもできません。」

これは弊社ネイティブスタッフが以前ブログ記事で書いたことと全く同じですね。
旅行者向けに英語でのPR文作成ポイントを纏めたものですが、例えば近年よく見かける『“premium” (プレミアム)な体験』という表現も、この言葉だけでは良さが伝わらず何がpremiumといえるのか明確・具体的な説明が必要ということなどを書いています。(詳細はこちらへ)

「あとは、価格の整合性も重要なポイントです。事業者さんで必要となる経費、販売にかかる手数料、適正な利益を積み上げたものが観光コンテンツの販売価格になりますよね。近年「高付加価値化」という言葉が盛んに言われ、高い価格設定をすればいいと勘違いしているのかなと感じる内容のものも残念ながらあります。先程の具体的説明にも通じますが、その金額を払う価値がどこにあるのか、価格の根拠となる納得感のある説明がないと、私たちもお客様への説明・説得ができません。」

意外と見落としがちなポイントは…

「実は、予約方法が分からない・記載がない、という場合もあります。とりあえず電話番号は書いてあるので電話してみるけど、かけてもかけても繋がらない、という事もあります。普通であればもうその時点で送客の対象から外れます。他にも、予約はInstagramのダイレクトメールで受け付けています、と記載があってもそのインスタは2年前の日付で更新が止まっている。お店やってるのかな…?と不安になりますよね。仮にお客様からそのお店をリクエストされたとしても特に遠方だと直接確認にも行けないですし、『そこは止めておきましょう。こっちの方が良いですよ』と、安心できるいつものところを勧める結果となってしまいます。」

「あとは予約・問い合わせのハードルですね。会社にもよりますが繁忙期には担当者が移動中にスマホで手配する場合があります。そうなると『予約は申込用紙をダウンロードして記入しFAXで送信』というものはスマホでは困難ですし、送客断念要因の「面倒くさい」となってしまうんですね。Googleフォームなど無料で活用できるツールもあるので、是非検討頂きたいと思います。」

「また決済方法で、請求書払い可となっているかも細かい点ですが重要ポイントです。特に高額単価で大人数となる場合には、仮にガイドさんが同行する場合であっても、社外の方に会社のクレジットカードや多くの現金を預けるというのは大変難しくなります。請求書払いは後払いと思われていることが多いのですが、前払いで設定頂くことも可能です。請求書払いが可能であれば、タリフにその旨明記することも大切です。」

これらは日々予約手配をされているランドオペレーターさんだからこその視点ですね。素敵な観光コンテンツを造成されたとしても、こういった細かい所を見落としているために受注に繋がらないのであればとてももったいないですね。

「そうなんです。各地域それぞれに魅力ある観光コンテンツがあると思います。特にリピーターが増えてきている昨今、私たちランドオペレーターの立場としても、そういった魅力ある観光コンテンツを是非お客様へ紹介したいですし、そのためにもコンテンツ造成や受入体制整備とともに、タリフも必須でご準備頂きたいと思います。」

最後に

弊社でも様々な地域の自治体、事業者の方とお話をする中で、せっかく作った観光コンテンツも販売に至らず作って終わってしまっているというご相談・お悩みを受けることがあります。

金馬さんのお話にもありました通り、観光コンテンツもタリフも、作ったから完璧!ではなく、作ってからがスタートで、やりながら磨いていく必要があるのだと思います。

ジェイ・リンクスさんではタリフ添削を通じた観光コンテンツ磨き上げのサービスも提供されています。また弊社では、ネイティブ専門人材によるコンサル、モニター参加、観光コンテンツプロモーション用の多言語ライティングといった支援もしております。

観光コンテンツを販売・誘客に繋げていくために、お手伝いできることがありましたらお気軽にご相談頂けますと幸いです。

<プロフィール>
株式会社ジェイ・リンクス 代表取締役 金馬(きんば)あゆみ

アルゼンチンでの日本語教師や帰国後の貿易商社での海外営業を経て、2008年に株式会社ジェイ・リンクスを設立。湾岸諸国を中心とした中東地域を主な対象とし、インバウンド事業、輸出事業、イベント事業などを手掛ける。近年は現地でのプロモーションや、現地ネットワークと現場の一次情報を生かした現地調査サポートおよびアドバイザリー業務なども行っている。