「ネイティブ・スタッフによる取材」はどれだけ最終品質に影響するか?
ローカライゼーションこれまでの看板・パンフレット・海外向けWebサイトは「単純翻訳」が主流でした。
これは文字通り、日本語を単純に他の言語に翻訳するものです。
しかし、そのような翻訳文章は読み手の外国人のバックグラウンドにより「わかりやすさ」が異なります。私たち日本人が外国人視点に立って翻訳したつもりでも、実は伝わっていないことも多いのです。昨今のグローバル化の進展や訪日外国人観光客の増加に伴い、「単純翻訳」ではなく母国語や文化に合わせた、わかりやすい「ライティング」が求められています。
このような背景から、観光庁は「地域観光資源の多言語解説整備支援事業」を発足させました。目的は「外国人にわかりやすく伝える解説文」の整備。
日光や大阪城、白神山地など日本国内外で名が知られる各所重点地域を含めた、42箇所の既存の外国語解説を修正してきました。
弊社は発足時から3年間継続して本事業に携わっています。主に整備対象地域の自治体をはじめとする関係者の皆様と連携しながら、多言語(英語と中国語)での解説文を作成しています。
外国人目線に立った解説文を心掛けており、そのために実際にネイティブ・スタッフが作成に携わっています。
今回は「英文ライティング」について簡単にご紹介するとともに、その工程として「ネイティブ・スタッフによる取材の大切さ」について、取り上げたいと思います。
まず、ライティングの大まかな流れは次のようなものになります。
(「3.取材の実施」をこの後で取り上げます。)
- 1. 整備対象の確定
- 2. 取材先・取材スケジュールの確定
- 3. 取材の実施
- 4. ライティングの方向性の確定(大まかな執筆内容の確定)
- 5. 執筆・編集・仮訳(日本語)
- 6. クライアントによる事実確認(事実誤認がないかチェック)
- 7. 修正・校正・校閲・仮訳(日本語)
- 8. 最終チェック・納品
仮訳(日本語)以外は、すべてネイティブ・スタッフによる工程になります
(日本人ディレクターが窓口となります)。
「取材」の大切さ
ライティングを進めるうえで、私たちが最も重視していることは「取材」です。
冒頭で触れたとおり、ライティングは日本語のパンプレット等をそのまま翻訳するものではありません。ネイティブ・スタッフが実際に現地にお邪魔して取材を行います。
そこでの見聞(一般的によく知られた・有名なものだけではなく、地元の人しか知らないようなエピソード等)がライティングに反映されますので、明文化されていない情報や、掘り下げた背景情報を幅広く得ることが目的となります。取材に基づき、かつ、英語を母国語とするネイティブ目線でこれらの情報の魅力を分析した上でのライティングとなりますので、それだけ読み手にとっては訴求力のある内容になります。
最終的にアウトプットされるものが同じ100ワードの英文だとしても、大量の情報から取捨選択をして、思いを込めて100ワードを紡ぎ出します。
例えば、2020年度の大山隠岐国立公園様のケースでは、主に自然、郷土料理、伝統文化・工芸などを対象に取材を行いました。約40点にわたる整備対象を4日間、取材させていただきました。
内容は、島根県大田市の三瓶そばや温泉、岡山県真庭市の珪藻土(蒜山の土壌)、郷原漆器や大宮踊り、郷土料理ひるぜん焼そば、CLT木材のほか、多岐にわたりました。
各取材先でその分野に詳しい方に説明をいただき、さらにネイティブ取材班が実体験(アクティビティの体験・試食など)を行うなど、まず自分たちの対象物に対する理解を深めることに努めました。
取材中、ネイティブ取材班より多くの質問が寄せられます。
「これは、なぜそうなのですか?」
「どうして、そうなったのですか?」
私たち日本人が普段気に掛けないことでも、外国人にとっては「なぜそうなのか」疑問に思うことも多く、取材先の方々には深く掘り下げて説明をいただくこともしばしばでした(1つの取材対象に対し、1時間ほどのお時間をいただくケースが多いです)。
このような取材を徹底的に行うことで想定される読み手の疑問を洗い出し、その疑問に応えられるようなライティングを作成することが可能になります。
読み手の「なぜ?」を引き出し、紐解いていくライティング手法は、読み手の興味と理解を深めてもらうことに繋がります。
ライティングにおいて、このような視点を持つことは、正しい英語を使うこと以上に大切なことであると言っても過言ではありません。
しかし、これは国内の既存の外国語ライティングの多くに欠けている点であり、今後このような補助金事業を活用しながら全国で改善に努めていくことが求められます。
追記:
外国人観光客の中には、リピーターとして何度も日本を訪れる人もいます。既に主要な観光地には行きつくし、まだ知られざる地を目指して再訪する人もいます。
いわゆる「有名な観光地」ではない場所は、むしろ魅力に映り、それをSNSなどで発信することに喜び(共有したい)を感じる人も少なくないようです。
アフターコロナの訪日プランに関する台湾・香港ユーザーアンケート
◎弊社運営「japan-guide(日本旅遊與生活指南)」のユーザーを対象にオンラインアンケートを実施しました。
弊社のネイティブ・スタッフによると、心に残る旅の思い出は「地域の人々の温かさ」のようです。
今回、お世話になりました大田市、真庭市では、出会った皆さんが大変温かく迎えてくだいました。
そして、何度も訪れたくなるような魅力的な場所がたくさんありました。ご担当者様をはじめ皆さんの優しさに触れ、感動の連続でした。その感動がライティングにも反映されたのではないかと思います。
大田市様、真庭市様の関係者の皆様の多大なるご協力に、心より御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。