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視覚障害者の買い物体験を変える:アクセシブルコードとインクルーシブ店舗づくり

アクセシブルコード
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F. Izumi

はじめに

視覚障害を持つ方々にとって、店舗での商品選びや情報の取得は簡単ではありません。店内のどこに商品があるのかが分かりにくく、パッケージに記載された成分やアレルギー情報、使用方法を読み取ることも難しいためです。また、同じカテゴリの商品が並んでいると、どれを選べばよいのかを判断しづらいという課題もあります。

こうした状況を改善するために、デジタル技術を活用した支援ツールが登場しています。本ブログでは、視覚障害者の声をもとに、アクセシブルコードをはじめとするテクノロジーがどのように買い物体験を向上させるのかを探りたいと思います。

情報の壁をなくす

アクセシブルコードとは?

アクセシブルコードは、1つのQRコードで多言語対応と音声情報提供を実現する二次元コードです。スマートフォンでスキャンするだけで、視覚障害者向けに最適化された音声案内が提供されるほか、スマートフォンの設定言語に応じて最大15言語で自動表示されるため、訪日外国人や在留外国人にも役立ちます。また、触れて場所を特定しやすい仕様を備え、点字の代替機能も果たします。
従来のパッケージ印刷とは異なり、リアルタイムで情報を更新できるため、商品内容の変更や追加などにも即時対応が可能です。シンプルなデザインでパッケージに組み込みやすいことも、大きな利点の一つです。
たとえば、消費者が店舗で商品を手に取った際にスマートフォンでアクセシブルコードをスキャンすると、成分情報や使用方法、アレルギー情報、注意点などが音声や多言語で取得できます。これにより、視覚障害者だけでなく、高齢者や読字障害を持つ方々にも役立ちます。

店舗における役割と価値

ドラックストア特設コーナに陳列されるアクセシブルコードが付いたシオノギヘルケアのリンデロンシリーズ製品
ドラックストア特設コーナに陳列されるアクセシブルコードが付いたシオノギヘルケアのリンデロンシリーズ製品

アクセシブルコードを導入することで、店舗での買い物環境がよりインクルーシブになります。特に視覚障害者にとっては、パッケージ情報を音声で取得できるため、商品情報を簡単に確認でき、安心して選択できるようになります。また、訪日外国人にとっても、母国語で情報を取得できる点は大きなメリットです。

  • 情報のバリアフリー化:パッケージ情報を音声で取得可能になり、視覚障害者や高齢者にも優しい設計。
  • インクルーシブな店舗づくり:視覚障害者や訪日外国人など、多様な人々が商品情報を得やすくなる。
  • 選択肢の拡大:これまで情報が不足していたために購入を諦めていた商品も、適切な情報を得ることで新たな選択肢として加わる。

これにより、より多くの人が自分に合った商品を選びやすくなり、買い物の利便性が向上します。しかし、アクセシブルコードだけでは、店内で「どこに商品があるのか」や「どれを選べばよいのか」といった課題を完全に解決することはできません。そこで、NaviLensやSeeing AI、Be My Eyesといった他の支援ツールと連携することで、より包括的なサポートを実現できます。

買い物体験を支援する技術との連携

視覚障害者の買い物をスムーズにするためには、複数の支援ツールを組み合わせて活用することが理想的です。

(1) 店舗でのナビゲーション支援(NaviLensの活用)

たとえば、NaviLensを活用すれば、店舗内の棚の位置や商品カテゴリの案内が可能になります。スマートフォンでコードをスキャンすると、音声で方向や距離を案内するため、視覚障害者が目的の商品棚までスムーズに移動できるようになります。

(2) 店内での商品情報取得(Seeing AI / Be My Eyes/アイコサポートとの連携)

また、Seeing AIを活用することで、バーコードやラベルの情報を音声化し、商品情報をリアルタイムで取得することができます。もし、それでも分からないことがある場合は、Be My Eyesアイコサポートの遠隔サポートを利用し、ボランティアや企業スタッフからリアルタイムでアドバイスを受けることが可能です。

(3) 購入後の詳細情報提供(アクセシブルコードの活用)

買い物後、自宅で商品を使用する際にも、アクセシブルコードが役立ちます。購入した商品のパッケージに印刷されたアクセシブルコードをスマートフォンでスキャンすることで、使用方法・注意事項・アレルギー情報などを音声や多言語で確認できます。これにより、「安全に使用できるか」「どのように保管すべきか」などの情報を、視覚的な制約なく入手できるため、安心して商品を利用できる環境が整います。

このように、それぞれのツールが異なる役割を担いながら、包括的なサポートを提供できます。

今後の展望と普及への課題

(1) 業界を超えた協力体制

視覚障害者が安心して買い物できる環境を整えるには、技術の導入だけでなく、メーカー・店舗・支援団体・自治体がそれぞれの役割を果たしながら連携することが不可欠です。

  • メーカー:パッケージ情報のバリアフリー化を推進
  • 店舗:ナビゲーションツールや音声案内の導入を検討
  • 支援団体:視覚障害者の声を反映し、より使いやすい仕組みを構築
  • 自治体・業界団体:ガイドライン策定を支援

(2) アクセシビリティ対応の標準化と課題

現状では、店舗ごとに取り組みが異なり、統一された基準がないのが実情です。今後は、業界全体で共通のガイドラインを整え、どの店舗でも一貫したアクセシビリティ対応ができる環境が望まれます。

また、デジタルツールだけでなく、店舗スタッフの研修やサポート体制の整備も欠かせません。特に、高齢者やデジタル機器に不慣れな方がスムーズに利用できる環境づくりが重要です。

アクセシブルコードの理解を深め、より多くの方にその有用性を実感してもらうための取り組みも進めています。ワークショップや体験イベントの開催を通じて、視覚障害者をはじめとする利用者が実際に試し、フィードバックを提供できる機会を増やすことで、実用性を高めていきます。このような活動を通じ、アクセシブルコードの認知を広げるとともに、その必要性をより多くの人に伝え、社会全体での理解と共感を促していきたいと考えています。

まとめ:誰もが買い物しやすい社会を目指して

視覚障害者の買い物体験を向上させるためには、店舗・メーカー・支援ツールが連携し、包括的なサポートを提供することが重要です。インバウンド対策と同様に、視覚障害者向けの対応も進めることで、「すべての人がストレスなく買い物できる社会」へとつながっていくでしょう。

アクセシブルコードをはじめとする技術の活用・推進と、業界全体の連携を通じて、よりインクルーシブな社会の実現を目指します。