なぜ、日本語から英語の翻訳は難しいのでしょうか?
ローカライゼーションライティングチーム、アシスタントエディター・ライターの山田です。
今回は日本語と英語の根本的な違い、そして翻訳をする際のポイントをご紹介します。それでは、見ていきましょう!
文脈文化の違い
みなさんは「ハイコンテクスト(高文脈)文化」と「ローコンテクスト(低文脈)文化」という言葉をご存じですか?
この2つは文化人類学者によって考案された「言語コミュニケーションスタイル」の概念です。簡単に説明すると、世界中の言語コミュニケーションのスタイルは、大まかに2つに分けることができます。それは、「高」と「低」文脈文化です(コントラストとも呼ばれます)。ハイコンテクスト文化は言葉ではなく文脈に頼る、いわゆる「行間を読む」(言葉の真意を理解する)必要があります。一方、ローコンテクスト文化は言葉だけではっきりと意味が通じるコミュニケーションスタイルです。(この概念は学術的研究による証明がされておらず仮説に過ぎませんが、一説としてよく用いられています。)
日本語と英語、翻訳の例
日本語と英語の比較では、一般的に日本語=ハイコンテクスト文化(言語)、英語=ローコンテクスト文化(言語)とされています。この違いにより、日本語話者と英語話者間のコミュニケーションは難しいと言われています。
例えば、ある菓子店のウェブサイト(日本語記載)を英訳するとしましょう。日本語で次のような記載があります。
「懐かしい風味のあるお菓子を作っています」
この文を読んで、どのようなイメージが浮かびましたか?
「和菓子」、「お母さんやおばあさんの手作りのお菓子」、「来客に食べてもらう美味しいお菓子」など、色々あると思います。でも、「懐かしい」とは何を思って懐かしいと感じるのでしょうか?「風味」とは何?「お菓子」と言ってもどのお菓子?こうして掘り下げてみると、言葉だけでは十分に伝わらず、非常にわかりにくい文章です。それにも関わらず日本人が日本語で読むと、ごく自然で色々な想いが呼び起されます。興味深いですね!
ですが、この日本語を英訳しようとすると、大変困ります。直訳すると、以下の文になります。
“[We] make sweets with [a] nostalgic flavor[s].”
英語圏の人たちは日本のお菓子にあまり馴染みがないので、「懐かしい」や「風味」、「だれが作っているのか」を説明しなければ、その魅力が十分に伝わりません。つまり、コンテクスト(文脈)が足りていないのです。このお菓子がなぜ特別なのか、どこが優れているのか、味の特徴など、残念ながら直訳した英語にはその商品の魅力が全く伝わっていないのです。
英語は、相手(読者)がその言葉のコンテクストを必ずしも理解するとは限りません。そのため日本語を翻訳(=直訳)ではなく、以下のような文にライティングするのが良いと言えます。
“Made from traditional recipes handed down over generations, ABC Company’s traditional wagashi evoke the flavors of your childhood through their delicate sweetness.”
和訳:代々受け継がれてきた伝統的なレシピで作られたABC会社の和菓子は、繊細な甘さによって子供の頃の味を思い起こさせてくれます。
英語に補足が付け加えられ、お菓子に対するより具体的なイメージがつくようになりました。
このようにコンテクストの違いを補うためには「翻訳」ではなく、ネイティブ視点の「ライティング」が望ましいと私たちは考えます。一般的に翻訳は直訳ですので、日本語の行間に書かれている言葉の真意を英語に反映することはできません。一方、ライティングは、商品・サービス・場所などの魅力を深堀りしてからライティングやクリエイティブ翻訳(言葉の真意を理解したうえでの翻訳)するので、よりネイティブに響きやすい文章に仕上げることができます。
日本語から英語、翻訳のポイント
ネイティブに伝わる翻訳(英文)のポイントは、まずライターは日本文化に対する深い理解が必要です。そして、コンテクストを書くことです。
例えば、「~町の冬料理を楽しめます」の場合は、何の料理か、何をどのように楽しめるのかを具体的に表現することで、その魅力が伝わりやすくなります。
また、「~と伝えられています」などの曖昧な表現よりも、「誰が、いつから伝えているのか」など少しでも明確に書けたら、より面白くてわかりやすい文になるでしょう。
一見、この作業は簡単そうに見えますが、実は高いスキルが必要です。翻訳者やライターは日本語が堪能だけではなく、ハイコンテクスト・ローコンテクスト文化の違いを理解し、その隙間を埋めるためのスキルが不可欠です。
私たちはこの言語・文化の違いを理解しながらライティング、クリエイティブ翻訳を手掛けています。これからもネイティブの視点を活かしながら、日本の魅力を英語で発信し続けていきたいと思っています。
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2022年6月7日投稿: 『Please, Don’t Write about the Four Seasons ― 「四季」を強調する観光マーケティングの問題点』