Sake On Air 最新エピソード解説「#39: Dojima Sake with Tony Mitchell」
ポッドキャストこんにちは、japan-guide.com事業部の追川です。
本日は弊社が制作に携わっているSakeをテーマにしたポッドキャスト『Sake on Air』(以下、SOA)の最新エピソード「#39: Dojima Sake with Tony Mitchell」の解説をお届けします。
今回のエピソードは、ホストのChris Hughesさんがイギリス・ケンブリッジにある酒造DOJIMA SAKE BREWERYで働くTony Mitchellさん(以下、Tonyさん)をゲストに迎え、インタビュー形式でお送りします。
プロデューサーは弊社のFrank Walterです。
なお今回の放送は、2019年にChrisさんがイギリスに一時帰国した際に収録したTonyさんのインタビューを編集したものです。
【今回のエピソードのキーワード】
- pair well with ~:~と相性が良い。
- be blown away:吹き飛ばされる、感動させられる、驚かされる(殺される、酔っ払っているという意味もある)。
- estate:私有地、地所。今回のエピソードの文脈では、「敷地」と理解するのが良い。
- filtration:濾過。
- major point:重要な点。
【Dojima Sake Breweryについて】04:35~
Tonyさんが働くDojima Sake Breweryは2018年にスタートしたイギリス・ケンブリッジにある酒造で、オーナーは日本人の橋本良英さんです。Tonyさんの奥さんは日本人で、その親戚が福岡で酒造を運営しており、Tonyさんも以前その福岡の酒造で働いた経験があるそうです。
Dojima Sake Breweryには主に二つの商品、Dojima Junmaiと生貴醸酒(とろみのある甘いタイプの日本酒)があります。この生貴醸酒はとても甘く、デザートなどに限らずSunday roast(イギリスで日曜日に食べる伝統的な食事)とのペアリングの相性も抜群とのこと。また、温めても美味しく、2年おきに熟成酒として販売される予定もあるそうです。
Breweryのあるエリアはとても緑が豊かで、敷地内は日本庭園が造られていたり、野菜を育てたりしています。オーナーはこの場所を単なる酒造ではなく、日本文化を体験できる場所にしたいという意向を持っているそうです。
他にも、会員登録者に先述の二つの商品のうちどちらか一方を1ボトルプレゼントするプラン、敷地内で桜やJapanese maples(イロハモミジ)を鑑賞できるように庭を整備したり、酒の神様である松尾神を祀る小さな神社を作るプランも考えています。
【Tonyさんについて】11:18~
Tonyさんは3ヶ月半、福岡の若竹屋酒造場で働いた経験があります。奥さんは当初は酒造で働くことには反対だったそうですが、結局OKを出してくれました。そしてこの酒造での経験がTonyさんにとても大きな影響を与え、酒造りに生涯を捧げたいと思うに至ったそうです。若竹屋酒造場で働いたあとは駐日英国大使館に3年半勤務しました。
【Dojima Sake Breweryのミッション】15:55~
オーナーとDojima Sake Breweryのミッションは、Sakeを世界に広めること。そして高級なワインやミシュランの星付きレストランなどと同じように、世界の人々にSakeに対しても関心を持ってもらうことだと言います。
これらのミッションとも関連する形で、Breweryは非会員も対象にしたイベント(酒以外をテーマにしたものも)を開催しています。なかでも見学ツアーはとても好評を博しています。
Tonyさんはこの見学ツアーを任されていますが、よく聞かれる質問がなぜここで働いているんですか?何がきっかけでここで働くことになったんですか?」などのTonyさん個人に対する質問や、水の代わりに酒を使って醸造する貴醸酒に関する質問です。
【酒造りに関わるようになったきっかけ】22:12~
Tonyさんはある時、奥さんとともに若竹屋酒造場を訪れました。その際、酒造の方と一緒に飲む機会があり、そこで飲んだ酒の味に感動しました。さらに、Tonyさんは酒造から「1季一緒に働いてみないか?」という誘いを受けました。一度この話を持ち帰りましたが、奥さんは給料が低いこと、忙しくて休む暇もないこと、重労働であることなどの理由から強く反対しました。しかし、Tonyさん本人が強く希望したため、結局この誘いを受けることにしました。
実際に働いてみて、酒造りの仕事はたしかにとてもハードなものでしたが、Tonyさんはこの仕事をとてもエンジョイしたと振り返ります。
酒造での仕事を終えて駐日英国大使館で働き始めた後も、いつか酒造りに戻りたいという思いは持っていましたが、安定した生活の中でもうその道は途絶えてしまったかのように思えました。しかしケンブリッジにDojima Sake Breweryがオープンすると聞き、大使館の仕事を辞め、そこで働く決心をしました。
【Dojima Sake Breweryの酒造り】29:44~
Dojima Sake Breweryの敷地の端には湧水が存在し、この水が酒造りに大きく貢献しています。ただしこの水は少し硬いため、その原因である鉄分を取り除いて酒造りに適した硬度に調整する必要があります。Breweryはこの工程に必要な独自の濾過システムを備えています。
杜氏はBreweryに常駐していませんが、頻繁にこの地を訪れて品質管理や酒造りの指導を行っています。
Breweryのオープンにあたって困難だったのは施設の設営でした。当初の予定では2017年12月のオープンでしたが、実際のオープンは2018年4月にずれ込みました。また2018年の夏は異常気象ともいえる暑さがイギリス(というよりもヨーロッパ全体)を襲ったため、酒造りの際は緊急措置として氷を使用して温度調節を行うという苦労も経験しました。
これらの困難を乗り越えて現在販売している酒はとても高い品質を誇っています。
ホストのChrisさんも「とてもスムースで後味がすっきりしていて、バランスがとれた味」の酒であると評しています。中でも、精米歩合70%の山田錦、協会酵母901号を使用したThe Dojima Junmaiが現在最も高い評価を受けており、Chrisさんと同様のコメントを多く受けているそうです。この酒は魚介料理のほか、イギリス食文化の代表であるFish and chipsとも相性が良いとのこと。
【イギリスのSake産業】38:20~
Tonyさんは、イギリス、そしてヨーロッパ全体でSake産業は確実にポジティブな方向に向かっていると言います。ロンドンをはじめとして、さまざまな場所で日本酒関連のイベントも開催されています。
Sakeをさらに広めていくにあたって、何が必要になるかという問いに対しては、教育が重要だと答えています。教育の要素を持ったアクティビティとして、Tonyさんは「3日間での麹作り」のような、酒造りを少しでも体験し、より深く知ることを目的とした講座をやってみたいという構想もあるようです。
【編集後記】
私は2014年に半年間、ロンドンに留学経験があります。近年ロンドンでは、その当時にはまだ無かったJapan Houseがオープンしたり、新しいラーメン店がオープンしたりと、日本文化の存在感が年々大きくなっています。Dojima Sake Breweryも2018年にオープンしたばかり、さらにロンドンから100kmほど離れたケンブリッジにあるということで、日本文化の輸出がまた一歩進んだ印象があります。
またTonyさんが最後に語っていた、「文化を広めていくうえでの教育の重要性」も、グローバル化が進む中でさらに大きくなっていくでしょう。
日本酒も何も知らずに飲むよりも、その造り方、味や香りの特徴、フードペアリングの相性などを聞いたうえで飲んだ方が楽しめるはずですし、予備知識が少ない外国人にとってはこの傾向はなおさらです。
弊社の事業も、多言語でのウェブサイト制作、および観光資源の解説文制作、ジャパンガイドの総代理店業務など、外国人により詳しく正確に情報を伝えるという共通の目的のもとに成り立っています。普段、目の前の業務を慌ただしくこなしているうちについつい忘れてしまいそうになりますが、自分たちの日々の仕事が異文化理解の促進に直結するものであることを意識して、改めて気を引き締めて取り組んでいこうという気持ちになりました。
【SOAについて】
SOAは日本酒造組合中央会(JSS)さんの後援を受け、日本在住アメリカ人のJustin PottsさんをはじめとしたSakeに情熱を燃やす外国人たちが毎回入れ替わりでホストを務め、2週間に1回のペースで新たなエピソードを公開しているポッドキャスト番組です。EXJは公式ウェブサイトの制作を手掛けたほか、毎エピソードの制作に携わっています。